被告側提出の答弁書(平成18年3月1日)

平成17年(行ウ)第12号 怠る事実違法確認請求事件

原告 奥田寛 外23名

被告 中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克

 

答 弁 書


平成18年3月1日


奈良地方裁判所民事部合議1係 御中

〒630−8267 奈良市大豆山突抜町16番地
          あすか法律事務所(送達場所)
          電話 0742−22−4301
          FAX 0742−23−3562

          上記被告訴訟代理人
          弁 護 士   中本 勝
          弁 護 士   緒方 賢史
          弁 護 士   西村 甲児

 


第1 請求の趣旨に対する答弁

1原告の請求を棄却する

2訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

 

 

第2 請求の原因に対する認否

1 請求の原因第1の事実は認める。

2 同第2の事実も認める。

3 同第3第1項の事実も認める。

 同第2項の主張は争う。原普主張の19名に関する任命行為は無効ではなく,取り消しうべき行為であったに過ぎない。

 同第3項の主張も争う。前川正の行為に原告主張の違法はない。

 同第4項の事実は認める。

 同第5項の主張は争う。被告の主張で述べるとおり,長谷川雅章ら12名に共同不法行為は成立しない。

4 同第4の主張のうち,不正に採用された19名に対する任命行為が無効であるとの主張は争う。

5 同第5の事実のうち,原告主張の各金員が支出されたことは認めるが,それが損害であることは否認する。同金員は適法に支出されており,中和広域消防組合にとって損害に当たらない。

6 同第6の主張は争う。中和広域消防組合は長谷川雅章ら12名に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しておらず,したがって,被告がその行使を怠っている事実もない。

7 同第7の事実は認める。

 


第3 被告の主張

 本件において,中和広域消防組合の職員採用試験の試験結果が不正に改鴛され,本来採用されるべきでなかった19名について任命行為がなされてしまったことは事実である。しかし,これらの19名に対する任命行為は取り消しうべきものであったに過ぎず,採用が取り消されるまで(採用取消以前に辞職した1名については辞職するまで)同19名は消防職員としての身分を有していたのであるから,これらの19名に関する本件各費用の支出は適法であり,中和広域消防組合に損害は発生していない。

 一般に,無効な行政行為とは,自己の判断と責任においてこれを無視し,いつでも法定の手続に拘束されることなく否認することができる行為であるとされ,取り消しうべき行政行為とは,違法ではあるが一応有効なものとして存続し,権限のある行政庁によって取り消されて初めてその効力を失う行政行為であるとされる。そして,両者の区別基準としては,その違法が行政行為の無効をもたらすほどに重大かつ明白なものであるかが問題とされている。

 本件では,消防組織法14条の4第1項の定めるところにより,地方公務員法の規定に基づいて採用試験が実施され,その試験結果を基にして,消防組織法14条の3第1項によって消防長の任命行為が行われているのであるから,外形的には法律の手続に則った任命行為が行われている。また,不正に採用された19名自身は不正行為に関わっておらず,自己が不正に採用された事実さえ認識していなかった。さらに,消防職員たる身分は,あくまで採用候補者名簿に登載された者に対する中和広域消防組合の採用の意思表示とこれに対する承諾によって取得されるものであり,採用拭験に合格と判定されることによって当然に消防職員たる身分を取得するわけではないから,試験結果の改竄と消防職員の身分取得の関係は間接的であるとも言える。

 以上のことからすれば,本件19名に対する任命行為の違法性は,それが当然無効とされるほどに重大かつ明白なものとは青い難く,同行為は取り消しうべき行為に過ぎないのである。

 そうであれば,上記19名は,採用が取り消されるか辞職するまでは消防職員としての身分を有していたのであり,消防職員たる身分に基づいて支出された本件各支出は適法である。

 また,実質的に見ても,消防職員としての身分を失うまでの期間,上記19名は上司の監督及び命令に服して与えられた業務を行っていたのであり,これは中和広域消防組合にとってはこれらの19名から労務の提供を受けていたことに他ならないのであるから,同19名に支払われた給与及び諸手当について損害であるとの主張は当たらない。給与及び諸手当以外の入校旅費,被服費,定期健康診断費,各種負担金についても,上記19名の労務の提供に付随して当然必要となる経費なのであるから,同様に損害ととらえるのは失当である。

 以上述べたとおり,本件においては中和広域消防組合に損害は発生しておらず,原告の請求には理由がないので,速やかに棄却されるべきである。

 

附 属 書 類

1 訴訟委任状 1通


↓t1

↓t2

↓t3

↓t4




中和広域消防事件・「平成17年『行ウ』12号」

で原告24名が奈良地方裁判所へ提出した訴状

平成17年12月20日

訴状

当事者目録

 別紙当事者目録記載のとおり。

請求の趣旨

1 被告中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克が、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、木綿谷弘之、山本善一、林多美子、細井利悦、前川正らに対して、同人らは連帯して金3414万7631円を支払えとの請求をすることを怠ることは違法であることを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

請求の原因

第1 当事者等

1 原告ら

 原告らはいずれも橿原市民であり、原告奥田寛は、橿原市議会議員(無所属)である。

2 被告

 被告は中和広域消防組合の管理者職務代理者である。中和広域消防組合は、消防団及び消防水利施設に関する事務を除く、組合市町村の消防事務を共同処理する、地方自治法284条1項2項所定の一部事務組合である。

 中和広域消防組合は、大和高田市、橿原市、御所市、高市郡高取町、高市郡明日香村の各地方公共団体によって組織される(中和広域消防組合規約第2条)。

 中和広域消防組合の管理者は御所市長前川正であったが、同人が、平成17年11月14日、辞職したため、地方自治法152条1項に基づき被告が同組合管理者職務代理者に就任したものである。

3 中和広域消防組合の職員不正任用に関わった者ら

(1) 市議会議員ら

 長谷川雅章、高見精一はいずれも橿原市議会議員、森村修史、萬津力治はいずれも大和高田市議会議員であり、小松久展は御所市議会議員であった。

(2) 中和広域消防組合の職員

 中村隆之は、平成17年度職員採用試験当時、中和広域消防組合において、消防本部の事務を統括し消防職員を指揮監督する権限を有する消防長(消防組織法13条1項、2項)の職にあり、中和広域消防組合職員の任命権者であった(同法14条1項)。

 井邑雅則は、上記試験当時、人事企画課長であり、平成17年度の職員採用の試験委員会の委員であった。

(3) その他

 林多美子は、自己の親族の不正任用を森村修史に依頼する目的で、大和高田市職員である木綿谷弘之及び山本善一に森村修史を紹介してもらい、森村修史に不正再任用の働きかけを依頼して、同人に賄賂を交付した。

 細井利悦は、自己の親族の不正任用の働きかけを長谷川雅章に依頼し、賄賂を交付した。

第2 中和広域消防組合による平成17年度職員任用とその取消

中和広域消防組合においては、人事委員会は設置されていないが、平成17年度の職員採用は、競争試験の方法が採用され、一次試験(教養と作文の筆記、適性検査)が、平成16年10月17日に実施され、286人が受験した。2次試験(面接と体力テスト)は、同年11月21日に実施され、23名が合格とされた。

 上記23名は、平成17年4月1日付で、中和広域消防組合の消防職員として任命された。
しかし、上記合格者23人中19人について、地方公務員法15条の任用の根本基準に反する、試験結果の改竄という不正行為によって採用されたことが明らかとなり、中和広域消防組合は、平成17年9月21日、上記19人中、同年7月11日付で辞職した1人を除く18人につき採用を取り消した。

第3 違法行為の存在ー中和広域消防組合の職員不正任用

 平成17年度の採用試験において、不正任用された19名の関係者である林多美子、細井利悦、木綿谷弘之及び山本善一らは、上記19名の一部の者が被告職員として任用されるよう森村修史、長谷川雅章らに依頼あるいは依頼を斡旋し、これを受けた森村修史、長谷川雅章及び、林多美子ら以外の関係者から依頼を受けた高見精一、萬津力治、小松久展らは、こもごも被告の消防長である中村隆之に不正任用を働きかけ、中村隆之が、人事企画課長であった井邑雅則に命じて試験結果を改竄させた。

上記不正な採用試験に基づく、上記19名に関する平成17年4月1日付の職員任用行為は、後記のとおり違法無効である。
中村隆之は、任用権者として事情を知悉していた者である以上、上記19名については、当然任用すべきでなく、かつ、任用行為後は直ちに当該任用行為の無効を確認し、事実上あるいは外形上の勤務関係(民間企業で言う雇用関係)を解消すべきであったのに、平成17年4月1日付の任用行為後もこれを怠った不作為の違法が認められる。

 前川正は、平成17年度採用試験当時及び平成17年4月1日当時、中和広域消防組合の管理者であった以上、任用行為が適性に行われるよう監督する義務があったのにこれを怠り、中村隆之らの不正任用行為を過失により看過し、任用に対する承認(消防組織法14条の3第1項参照)を行うべきでないのにこれを行った違法がある。
また、中村隆之及び井邑雅則が、平成17年5月29日、平成17年度採用試験の結果の改竄行為に関して、虚偽有印公文書作成・同行使の被疑事実で逮捕された際、前川正は、管理者として、直ちに事実を調査して、任用行為後は直ちに当該任用行為の無効を確認し、事実上あるいは外形上の勤務関係を解消するよう指示ないし命令すべき義務があったのにこれを怠り、漫然と同年9月21日まで、上記19名との事実上の勤務関係を継続させた違法がある。

中村隆之は、収賄罪の他、地方公務員法(同法15条、61条2号)違反で起訴され、また、長谷川雅章ら5名の市議会議員は、いずれも地方公務員法(同法15条、61条2号、62条ーそそのかし)違反等で、林多美子、細井利悦は贈賄で起訴されており、井邑雅則、木綿谷弘之及び山本善一が起訴猶予となった。

上記諸事情に鑑みれば、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らの上記行為は、社会的に見て、上記19名を中和広域消防組合の職員として不正に任用させ、それらの任用関係を維持し、中和広域消防組合に損害を与えることを目的とする一連の行為として、一体の共同不法行為であると評価できる。

第4 任用の無効

1 職員採用における能力主義の原則

地方公務員法においては、任用の根本基準として、同法の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならない旨を定めている(同法15条)。これは、成績主義の原則を任用について明らかにしたものであって、職員の採用や昇進などについては試験の成績あるいは勤務成績の評定結果に基づいて行うことにより、人事が情実や圧力によって、または任命権者の恣意によって左右され、そのことが任用の公正を阻害し、ひいては地方公共団体の業務の適性な執行を妨げる事態を防止しようとする。また、能力主義を貫徹することによって地方公共団体の能率確保、ひいては公益の増進を図らんとするものである。この原則に反して、任用を行った者は、3年以下の懲役又は罰金に処せられることとされている(同法61条2号)。

 人事委員会を置かない地方自治体においては職員の採用または昇任は、競争試験あるいは選考のいずれの方法によっても差し支えないものとされている(同法17条4項)。小規模な地方自治体においては競争試験では優秀な人材を集めることが不可能となることも多いので、選考という便宜的な方法により、人材確保の途が開かれているのである。

2 中和広域消防組合における平成17年度の職員採用の効力

 中和広域消防組合には、人事委員会が設置されていないが、平成17年度の職員採用においては、採用試験委員会を設けて競争試験を実施した。

 したがって、被告は、平成17年度の職員採用においても、能力主義の原則を貫徹しなければならず、これに反する行為は、任用の公正ひいては地方公共団体の業務の適性な執行を妨げ、地方公共団体の能率確保、公益の増進を阻害する虞のあるものとして、刑罰法規にも反する重大な違法性を有する行為である。

 しかるに、職員の任命権者である消防長であった、中村隆之は、故意に試験結果を改竄させて上記原則を犯し、収賄罪等の他、地方公務員法15条、61条2号に違反するものとして起訴されている。

 上記19人に対する本件任命行為は、明らかに地方公務員の任用の根本基準に関する法規に違反している点で重大であるというだけでなく、任命権者がこうした重大な法令違反の事実を認識しつつ、違法行為に積極的に加担していたこと、また、不正採用された側も自分が不正採用されたことを知りうる状況にあったこと、などを考慮するとその違反は極めて重大であるので、当然に無効というべきである。

第5 違法行為による損害の発生

1 損害

 長谷川雅章ら4名の市会議員及び中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らの上記第3記載の一連の違法行為の結果、中和広域消防組合には次の(1)〜(7)記載の各損害が発生した。その合計金額は金3414万7631円である。

(1) 中和広域消防組合は、平成17年9月21日まで、上記19名(但し、うち1名は7月11日に辞職。)に対する給与及び諸手当の支払いを行った。その金額は2128万1173円に上る。

(2) 中和消防学校は、上記19名に対し、初任科教育受講中の入校旅費132万7014円を支払った。

(3) 中和広域消防組合は、上記19名に関する初任科教育負担金440万3829円を奈良県消防学校に対して支払った。

(4) 中和消防組合は、上記19名に関する被服費として株式会社ナカジマ等に対し、合計231万4200円を支払った。

(5) 中和消防組合は、上記19名に関する定期健康診断費として、3万8000円を財団法人奈良県健康づくり財団に支払った。

(6) 中和消防組合は、上記19名に関する共済組合負担金として475万2132円を奈良県市町村職員共済組合に支払った。

(7) 中和消防組合は、上記19名に関する公務災害補償基金負担金として3万1283円を地方公務員災害補償基金に対し支払わなければならない。

2 因果関係

 社会通念に照らして、上記第3記載の一連の行為がなければ、上記各損害は発生しなかったという意味で、加害行為と損害との間に因果関係が認められる。

第6 怠る事実

 中和消防組合は、長谷川雅章ら4名の市会議員及び中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

を行使を怠っている。 ところが、被告中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克は、上記損害賠償請求権

第7 監査請求

 原告らは、平成17年9月26日、中和広域消防組合監査委員らに対して住民監査請求を行い、監査委員らは、同年10月7日、適法な監査請求としてこれを受理した。

2 しかし、同監査委員らは、同年11月22日、本件措置請求の各支出はいずれも違法な支出ではなく、措置の理由がないとして、上記監査請求を棄却した。

第8 結論

 よって、原告らは、地方自治法242条の2第1項3号、2項に基づき、被告が、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一及び前川正らに対して、同人らは連帯して金3414万7631円を支払えとの請求をすることを怠ることは違法であるとの確認を求める。

立証方法

 甲第1号証    監査請求書

 甲第2号証 意見陳述書

 甲第3号証 監査結果

 甲第4号証 中和広域消防組合規約


平成17年12月20日

原告ら訴訟代理人 弁護士  石川 量堂


同    島 由美子


奈良地方裁判所 御中


  以上



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