中和消防住民訴訟

和広域消防組合職員不正採用事件〜1〜

住民訴訟「平成17年(行ウ)第12号」

このページに掲載されている文章はほぼ原文どおりですが、明らかな誤字脱字については適宜修正してあります。

 

(1)中和広域消防組合職員措置請求書(監査請求書)(2005・09・26)

(2)中和広域消防組合への職員措置請求書にかかわる意見陳述書(2005・10・20)

措置請求書・事実証明書H-1  不正採用19人分の給与等総支給額とその他経費のまとめ・エクセルファイル

(3)監査請求書・意見陳述書に対する監査結果(2005・11・22)

 

 

 

(4)中和広域消防組合職員不正採用事件に関する損害賠償請求を怠る事実の違法確認住民訴訟奈良地裁「平成17年(行ウ)12号」訴状(2005・12・20)

(5)住民訴訟・被告側(中和広域消防組合)提出の答弁書(2006・03・01)

(6)住民訴訟・原告側提出の第一準備書面・答弁書に対する反論(2006・05・31)

(7)住民訴訟・被告側提出の準備書面・第一準備書面に対する反論(2006・06・30)

(8)住民訴訟・原告側提出の第二準備書面(2006・09・12)

 

中和広域消防組合のHP  監査結果 が掲載されています


 (1)中和広域消防組合職員措置請求書(監査請求書)(2005・09・26)

平成17年 9月 26日

中和広域消防組合監査委員 各位

〒634-0051 奈良県橿原市白橿町8-17-14

橿原市議会議員  奥田 寛 

外 74名 





中和広域消防組合職員措置請求書




 以下のとおり、地方自治法第242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添付の上必要な措置を請求します。


1. 請求の要旨

(1)中和広域消防組合(管理者・前川正御所市長)消防本部の消防長であった中村隆之は、人事企画課長であった井邑雅則などと共に、彼らがその職にあった平成16年9月ごろから平成17年4月までに行った平成17年度消防吏員(以下、「職員」と記す)採用試験において、本来の職務とともに採用試験委員会の委員という人事上の重要な職務にあたっていたが、不正な職員採用を求める市議会議員らの依頼を受けるなどして、試験結果に改竄を加え、本来、不合格となるべき19名(うち1名辞職)もの採用希望者を不正に採用した。
 また、組合管理者である前川正御所市長は、これらの監督を怠り、かかる不正な人事を安易に認めるという、職員採用処分上の重大な過ちを犯した。
 これに対し、刑事上の立件が為され、平成17年5月末の最初の事件報道から100日以上も経つ中で、ようやく組合は採用を「取り消し」、18名に通知したと報じられている。

(2)消防職員の採用手法においては、組合は一次試験を(財)日本人事試験研究センターへ委託契約し、66万870円の料金を平成16年11月18日に支払っているが、契約業者から受け取った試験結果には改竄が加えられたため、一次試験の執行それ自体が無意味になっている。
 これらの不正な職員採用の依頼や、その実現は地方公務員法第15条(任用の根本基準)、第19条(受験の阻害、秘密情報の提供)、第20条(競争試験の目的及び方法)に違反している。特に第15条、第19条の違反の責任は、62条(罰則)が定めるとおり、試験機関に属する者その他の職員ばかりでなく、行為を企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし、又はそのほう助をしたすべての者が負うべきものである。
 さらに、平成17年4月以降、不正に採用された職員への給与・手当て等の支払いも為されているが、このような犯罪による不正な職員採用を、知り、また知り得るべき者を公務員として扱うこと自体間違っており、上記の理由からもこの重大かつ明白な瑕疵ある職員採用は無効である。
 よって当該職員に公務員としての給与を支出することは、いかなる条例規則にも基づかず違法である。

(3)これらのことから、組合は、一次試験の委託料としての66万870円、不正に採用された職員19名(うち1名は7月11日付けで辞職)が消防学校で技術を学んでいた、平成17年4月から同年9月21日までの6カ月間に支払った給与・手当て等の総額として、約2100万円もの損害を蒙っている。

(4)よって、前川正管理者は、無意味になった一次試験の委託料66万870円と、不正採用処分によって生じた約2100万円の支出について、管理者自ら損害の補填を行うとともに、この一連の不正事件について、実行し、起訴あるいは起訴猶予の処分を受けて責任が明らかな中村隆之、井邑雅則のほか、採用試験委員会の委員であった職員、不正採用をそそのかした市議会議員、この不正採用に関して贈賄等の働きかけをした依頼者、それに加担協力した大和高田市職員などのほか、被採用者の親族などとして関与の可能性が報道されている公務員・消防団員ら、また、今後明らかにされていくであろう一切の関係者に対して損害賠償を請求するなどして、上記の損害の補填を行うべきである。


2.措置請求人署名(3ページ以降 75人 33枚)


(別紙 添付資料)

事実証明書A-1 ・平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用試験問題採点委託料についての支出命令書(1枚)
事実証明書B-1 ・平成17年4月1日以降9月21日までに組合が支払った不正採用19名分(うち1名は7月11日まで)の給与等支給総額の概算表(1枚)
事実証明書B-2 ・平成17年4月分、5月分、6月分、6月分賞与についての給与支払調書兼領収書(8枚)
事実証明書C-1 ・平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事のまとめ(3枚)
事実証明書C-2 ・平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事一覧(7枚)
事実証明書C-3 ・平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事(28枚・A3用紙は2枚と数える)



(2)中和広域消防組合への職員措置請求書にかかわる意見陳述書(2005・10・20)

 


平成17年 10月 20日

中和広域消防組合監査委員 各位


〒634-0051 奈良県橿原市白橿町8-17-14
橿原市議会議員 奥田 寛

中和広域消防組合職員措置請求にかかる意見陳述書

 平成17年9月26日に地方自治法242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添付して監査請求した件に関し、さらなる事実証明書を別紙添付の上、以下のとおり意見を陳述します。


1. 陳述の要旨


(1)措置請求の詳細と新事実の提出

 監査請求人が中和広域消防組合職員措置請求書を提出した平成17年9月26日の後の、10月17日・10月19日などに、中和広域消防組合(以下、組合と称する)が監査請求人・奥田寛に対して幾つかの文書の開示・提供と口頭による説明を行っており、また、平成17年9月30日には奈良地方裁判所において、中村隆之元消防長、森村和男大和高田市議の公判が、10月14日には長男を試験に合格させるために元消防長に現金を渡したとして贈賄罪に問われた母親の公判が行われ、有罪判決が言い渡されるなど、事態が進展し、新事実が明らかになってきているので、措置請求書で述べた内容を細かく説明するとともに、新事実について別紙事実証明書を添付して述べ、諸点について厳正な監査を求める。

 本件不正採用事件については、現在も刑事訴訟が進行中であり、事件の各論点において付き合わせる書類が警察に押収されたままになっているなど、慎重にならざるを得ない面があることも推測されるが、一方で間接的に明示されている事実も多く、監査委員各位におかれては、本件の解決を今後の糧としてシステムの改善につなげるためにも、可能な限り事実を調べ、明らかにし、不法行為の関係者に責任を追及する措置を命じて頂きたい。

 以下、現時点で確認し、あるいは判断を下すことが可能と思われる各論点を列挙する。



(2)職員採用一次試験の委託料

 平成17年度職員採用にかかる一次試験の委託料として、平成16年11月18日に(財)日本人事試験研究センターへ支払った金額は66万870円であったが、この委託事務は、試験結果の原本が改ざんされたため、無意味なものとなっており、また、原本自身が不存在になっているとも説明されている。

 この支出された金額が、組合にとって無用な損害となったことは明らかで、この金額の確認と損害の補填を求める。



(3)不正採用19名分の給与手当て等の総支出金額

 監査請求書及び事実証明書B-1において、監査請求人・奥田寛は組合から開示された職員の給与支払調書(平成17年4月・5月・6月・6月賞与)を根拠に、不正採用された元職員に支払われた平成17年4月1日から9月21日までの給与等の総支給額を2121万0592円と概算して示したが、その後、新たに組合から職員の給与支払調書(平成17年7月・8月・9月分)と、「平成17年度新規採用職員採用取消しに伴う9月分給与日割り計算」の開示・提供を受けたため、先の計算を修正して組合が給与手当て等の名目で支出した損害額を、2128万1173円と概算し直した。

 すでに新聞報道などで明らかにされているとおり、19名に対する採用処分には重大かつ明白な不正の瑕疵があり、無効である。

 この19名分の給与手当て等の支出は、組合にとって大きな損害となっており、金額の確認と損害の補填を求める。

(4)奈良県消防学校に対する初任科教育負担金
 
監査請求人・奥田寛は、監査請求書を提出した後に、奈良県消防学校に対して組合が支出した初任科教育負担金に関する文書の開示を受けた。

 不正に採用された19名を消防士として教育するために奈良県消防学校に対して支出されら負担金は組合にとって大きな損害であり、また、彼らがすでにその職を解かれた今、それらが無駄な出費であったことは尚更明白な事実である。

 よって、奈良県消防学校に対する19名分の初任科教育負担金を約440万3829円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(5)奈良県消防学校において初任科教育受講中の入校旅費

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、(4)に関連する入校旅費があるが、これは不正採用された19名その他の者が奈良県消防学校での合宿中に、週末、自宅へ帰省するための往復の旅費であって、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を132万7014円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(6)不正採用19名分の被服費

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員に提供された被服の代金があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を231万4200円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(7)不正採用19名分の定期健康診断費

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員の定期健康診断費があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を3万8000円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。


(8)不正採用19名分の共済組合負担金

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員に対する給与の支払いから生じる共済組合負担金があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月19日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を475万2132円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。


(9)不正採用19名分の公務災害補償基金負担金

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員に対する給与の支払いから生じる公務災害補償基金負担金があるが、これについては、制度上、平成17年度の給与支出の総額が反映されるのは平成18年度の公務災害補償基金負担金支出であると聞いている。

 予定された未来における支出であるが、これもまた不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって損害となる。
 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月19日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を3万1283円と概算したので、この金額の確認と未来における支出を防ぐための是正措置を求める。
 


(10)不正採用19名分の損害の合計とその他の経費

 上記の各金額の合計は、平成17年9月26日に提出した措置請求書で指摘していた分としては、(2)及び(3)の小計で2194万2043円、今回、平成17年10月20日付け意見陳述書において、追加で新たに指摘する損害額が(4)(5)(6)(7)(8)で、未執行の(9)も合わせて約1286万6459円にのぼる。

 これらの合計は約3480万8502円である。

 また、これらのほかにも渡し切りになっていて他の職員と共有できないものについては、組合の損害額として計上されるべきであり、そのような費目がないかどうか、金額を確認し、関係者に対して損害の補填を求める厳正な監査を為されたい。


(11)不正採用19名分の違法の証拠

 平成17年9月21日付けで、7月11日に辞職した1名以外の18名に対して採用「取消し」処分が為されたということは、新規採用された23名の内の、どの19名が、どのような不正採用であったかということについての客観的な証拠を組合が保有しているためと考える。

 これらの点も十分な調査の上、事実を明らかにされたい。


(12)損害の補填の責任を負うべき者

 この不正採用に関する一切の支出についての直接的な責任は、組合管理者である前川正御所市長と、中村隆之元消防長、井邑雅則元人事企画課長ら、不正採用の実行者にあることは言うまでもない。

 特に、中村元消防長、井邑元人事企画課長は不正採用処分に積極的に加担し、瑕疵ある行政処分を、違法かつ無効なものと知りながら強引にこれを執行し、これに関して上記各項にわたる大きな損害を組合に与え、しかもその処分の取消しを行い得る立場、或いは進言できる立場にありながら、それらを行うこともしなかった。

 この明白な故意性に鑑みて、中村元消防長、井邑元人事企画課長らが損害の補填を第一に行うべきことは当然である。
ところで、消防組織法第14条の3に「消防長は、市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する」とあり、中和広域消防組合管理者事務専決規程の第5条には、消防長の専決事項として「職員の給与等の支払いに関すること」等があげられている。

 同第6条には、「消防長は前条の規定による専決事項につき管理者の承認を得てその一部を所属職員に専決させることができる」と定められており、これらの条文から、本件不正採用については、前川管理者並びに副管理者の職にある他の自治体の長らも重大な監督責任を負っていることが明らかである。

 前川管理者には、故意または過失によって不正採用処分の承認を安易に行い、関連する支出についても本来の職務者として、また、他の職員に専決をせしめた者として監督を怠った責任があり、よって、管理者自ら損害の補填を行うとともに、この一連の不正事件について、実行し、起訴あるいは起訴猶予の処分を受けて責任が明らかな中村元消防長、井邑元人事企画課長、採用試験委員会の委員であった職員、不正採用をそそのかした市議会議員、この不正採用に関して贈賄等の働きかけをした依頼者、それに加担協力した大和高田市職員などのほか、被採用者の親族などとして関与の可能性が報道されている公務員・消防団員ら、また、今後明らかにされていくであろう一切の関係者に対して損害賠償を請求するなどして、上記の損害の補填を行うべきである。


 


(3)監査請求書・意見陳述書に対する監査結果(2005・11・22)

中広消監第 45 号
平成17年11月22日

奥 田 寛 様
外 71名  様

中和広域消防組合       
監査委員 東 野  勇
同    墨田 頼美

住民監査請求に基づく監査結果について(通知)



 平成17年9月26日に地方自治法第242条第1項の規定に基づき、提出された住民監査請求について監査を実施したので同条第4項の規定によりその結果を通知する。



第1 監査の請求


1請求の要旨 (措置請求書の原文のとおり)

(1) 中和広域消防組合(管理者・前川正御所市長)消防本部の消防長であった中村隆之は、人事企画課長であった井邑雅則などと共に、彼らがその職にあった平成16年9月ごろから平成17年4月までに行った平成17年度消防吏員(以下、「職員」と記す)採用試験において、本来の職務とともに採用試験委員会の委員という人事上の重要な職務にあたっていたが、不正な職員採用を求める市議会議員らの依頼を受けるなどして、試験結果に改竄を加え、本来、不合格となるべき19名(うち1名辞職)もの採用希望者を不正に採用した。

 また、組合管理者である前川正御所市長は、これらの監督を怠り、かかる不正な人事を安易に認めるという、職員採用処分上の重大な過ちを 犯した。

 これに対し、刑事上の立件が為され、平成17年5月末の最初の事件報道から100日以上も経つ中で、ようやく組合は採用を「取り消し」、18名に通知したと報じられている。

(2) 消防職員の採用手法においては、組合は一次試験を(財)日本人事試験研究センターへ委託契約し、66万870円の料金を平成16年11月18日に支払っているが、契約業者から受け取った試験結果には改竄が加えられたため、一次試験の執行それ自体が無意味になっている。

 これらの不正な職員採用の依頼や、その実現は地方公務員法第15条(任用の根本基準)、第19条(受験の阻害、秘密情報の提供)、第20条 (競争試験の目的及び方法)に違反している。特に第15条、第19条の違反の責任は、62条(罰則〉 が定めるとおり、試験機関に属する者その 他の職員ばかりでなく、行為を企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし、又はそのほう助をしたすべての者が負うべきものである。

 さらに、平成17年4月以降、不正に採用された職員への給与・手当て等の支払いも為されているが、このような犯罪による不正な職員採用を、 知り、また知り得るべき者を公務員として扱うこと自体間違っており、上記の理由からもこの重大かつ明白な瑕疵ある職員採用は無効である。

 よって当該職員に公務員としての給与を支出することは、いかなる条例規則にも基づかず違法である。

(3) これらのことから、組合は、一次試験の委託料としての66万870円、不正に採用された職員19名(うち1名は7月11日付けで辞職)が消防学校で技術を学んでいた、平成17年4月から同年9月21日までの6ケ月間に支払った給与・手当て等の総額として、約2100万円もの損害を蒙っている。

(4) よって、前川正管理者は、無意味になった一次試験の委託料66万870円と、不正採用処分によって生じた約2100万円の支出について、管 理者自ら損害の補填を行うとともに、この一連の不正事件について、実行し、起訴あるいは起訴猶予の処分を受けて責任が明らかな中村隆之、
井邑雅則のほか、採用試験委員会の委員であった職員、不正採用をそそのかした市議会議員、この不正採用に関して贈賄等の働きかけをした依頼者、それに加担協力した大和高田市職員などのほか、被採用者の親族などとして関与の可能性が報道されている公務員・消防団員ら、また、今後明らかにされていくであろう一切の関係者に対して損害賠償を請求するなどして、上記の損害の補填を行うべきである。

事実証明書

 A−1 平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用試験問題採点委託料についての支出命令書(1枚)

 B−1 平成17年4月1日以降9月21日までに組合が支払った不正採用19名分(うち1名は7月11日まで)の給与等支給総額の概算表(1枚)

 B−2 平成17年4月分、5月分、6月分、6月分賞与についての給与支払調書兼領収書(8枚)

 C−1 平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事のまとめ(3枚)

 C−2 平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事一覧(7枚)

 C−3 平成17年5月30日以降9月23日までの主要な報道記事(28枚・A3用紙は2枚と数える)

第2 請求の受理


 この請求書は、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「自治法」という。)第242条に規定する要件を具備していると認め、平成17年10月7日にこれを受理した。


第3 監査の実施


1 請求人の証拠の提出及び陳述


 平成17年10月20日、自治法第242条第6項の規定に基づき、証拠の提出及び陳述の機会を与えた。これに対し、請求人から請求書に記載  されない新たな請求並びに証拠の提出及び請求内容の補助説明があった。

 (新たに請求人から提出された請求事項は次のとおりである。)

 (原文のとおり)

中和広域消防組合職員措置請求にかかる意見陳述書


 平成17年9月26日に地方自治法242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添付して監査請求した件に関し、さらなる事実証明書を別紙添付の上、以下のとおり意見を陳述します。


1.陳述の要旨

(1)措置請求の詳細と新事実の提出

 監査請求人が中和広域消防組合職員措置請求書を提出した平成17年9月26日の後の、10月17日・10月19日などに、中和広域消防組合(以下、組合と称する)が監査請求人・奥田寛に対して幾つかの文書の開示・提供と口頭による説明を行っており、また、平成17年9月30日には奈良地方裁判所において、中村隆之元消防長、森村和男大和高田市議の公判が、10月14日には長男を試験に合格させるために元消防長に現金を渡したとして贈賄罪に問われた母親の公判が行われ、有罪判決が言い渡されるなど、事態が進展し、新事実が明らかになってきているので、措置請求書で述べた内容を細かく説明するとともに、新事実について別紙事実証明書を添付して述べ、諸点について厳正な監査を求める。

 本件不正採用事件については、現在も刑事訴訟が進行中であり、事件の各論点において付き合わせる書類が警察に押収されたままになっているなど、慎重にならざるを得ない面があることも推測されるが、一方で間接的に明示されている事実も多く、監査委員各位におかれては、本件の解決を今後の糧としてシステムの改善につなげるためにも、可能な限り事実を調べ、明らかにし、不法行為の関係者に責任を追及する措置を命じて頂きたい。

 以下、現時点で確認し、あるいは判断を下すことが可能と思われる各論点を列挙する。

(2)職員採用一次試験の委託料

 平成17年度職員採用にかかる一次試験の委託料として、平成16年11月18日に(財)日本人事試験研究センターへ支払った金額は66万870円であったが、この委託事務は、試験結果の原本が改ざんされたため、無意味なものとなっており、また、原本自身が不存在になっているとも説明されている。

 この支出された金額が、組合にとって無用な損害となったことは明らかで、この金額の確認と損害の補填を求める。

(3)不正採用19名分の給与手当て等の総支出金額

 監査請求書及び事実証明書B-1において、監査請求人・奥田寛は組合から開示された職員の給与支払調書(平成17年4月・5月・6月・6月賞与)を根拠に、不正採用された元職員に支払われた平成17年4月1日から9月21日までの給与等の総支給額を2121万0592円と概算して示したが、その後、新たに組合から職員の給与支払調書(平成17年7月・8月・9月分)と、「平成17年度新規採用職員採用取消しに伴う9月分給与日割り計算」の開示・提供を受けたため、先の計算を修正して組合が給与手当て等の名目で支出した損害額を、2128万1173円と概算し直した。

 すでに新聞報道などで明らかにされているとおり、19名に対する採用処分には重大かつ明白な不正の瑕疵があり、無効である。

 この19名分の給与手当て等の支出は、組合にとって大きな損害となっており、金額の確認と損害の補填を求める。

(4)奈良県消防学校に対する初任科教育負担金

 監査請求人・奥田寛は、監査請求書を提出した後に、奈良県消防学校に対して組合が支出した初任科教育負担金に関する文書の開示を受けた。

 不正に採用された19名を消防士として教育するために奈良県消防学校に対して支出され負担金は組合にとって大きな損害であり、また、彼らがすでにその職を解かれた今、それらが無駄な出費であったことは尚更明白な事実である。

 よって、奈良県消防学校に対する19名分の初任科教育負担金を約440万3829円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(5)奈良県消防学校において初任科教育受講中の入校旅費

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、(4)に関連する入校旅費があるが、これは不正採用された19名その他の者が奈良県消防学校での合宿中に、週末、自宅へ帰省するための往復の旅費であって、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を132万7014円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(6)不正採用19名分の被服費

 歳出予算要求書から推測される経費のうちに、新規採用職員に提供された被服の代金があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を231万4200円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(7)不正採用19名分の定期健康診断費

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員の定期健康診断費があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月17日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を3万8000円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(8)不正採用19名分の共済組合負担金

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員に対する給与の支払いから生じる共済組合負担金があるが、これについても、不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって大きな損害となっている。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月19日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を475万2132円と概算したので、この金額の確認と損害の補填を求める。

(9)不正採用19名分の公務災害補償基金負担金

 歳出予算要求書から推測できる経費のうちに、新規採用職員に対する給与の支払いから生じる公務災害補償基金負担金があるが、これについては、制度上、平成17年度の給与支出の総額が反映されるのは平成18年度の公務災害補償基金負担金支出であると聞いている。

 予定された未来における支出であるが、これもまた不正採用が無かったならば生じなかったはずの経費であり、中和消防にとって損害となる。

 監査請求人・奥田寛が監査請求提出後の平成17年10月19日に中和消防より口頭で説明を受けたことに基づき、この金額を3万1283円と概算したので、この金額の確認と未来における支出を防ぐための是正措置を求める。

(10)不正採用19名分の損害の合計とその他の経費

 上記の各金額の合計は、平成17年9月26日に提出した措置請求書で指摘していた分としては、(2)及び(3)の小計で2194万2043円、今回、平成17年10月20日付けの意見陳述書において、追加で新たに指摘する損害額が(4)(5)(6)(7)(8)で、未執行の(9)も合わせて約1286万6459円にのぼる。

 これらの合計は約3480万8502円である。

 また、これらのほかにも渡し切りになっていて他の職員と共有できないものについては、組合の損害額として計上されるべきであり、そのような費目がないかどうか、金額を確認し、関係者に対して損害の補填を求める厳正な監査を為されたい。

(11)不正採用19名分の違法の証拠

 平成17年9月21日付けで、7月11日に辞職した1名以外の18名に対して採用「取消し」処分が為されたということは、新規採用された23名の内の、どの19名が、どのような不正採用であったかということについての客観的な証拠を組合が保有しているためと考える。

 これらの点も十分な調査の上、事実を明らかにされたい。

(12)損害の補填の責任を負うべき者

 この不正採用に関する一切の支出について直接的な責任は、組合管理者である前川正御所市長と、中村隆之元消防長、井邑雅則元人事企画課長ら、不正採用の実行者にあることは言うまでもない。

 特に、中村元消防長、井邑元人事企画課長は不正採用処分に積極的に加担し、瑕疵ある行政処分を、違法かつ無効なものと知りながら強引にこれを執行し、これに関して上記各項にわたる大きな損害を組合に与え、しかもその処分の取消しを行い得る立場、或いは進言できる立場にありながら、それらを行うこともしなかった。

 この明白な故意性に鑑みて、中村元消防長、井邑元人事企画課長らが損害の補填を第一に行うべきことは当然である。

 ところで、消防組織法第14条の3に「消防長は、市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する」とあり、中和広域消防組合管理者事務専決規程の第5条には、消防長の専決事項として「職員の給与等の支払いに関すること」等があげられている。

 同第6条には、「消防長は前条の規定による専決事項につき管理者の承認を得てその一部を所属職員に専決させることができる」と定められており、これらの条文から、本件不正採用については、前川管理者並びに副管理者の職にある他の自治体の長らも重大な監督責任を負っていることが明らかである。

 前川管理者には、故意または過失によって不正採用処分の承認を安易に行い、関連する支出についても本来の職務者として、また、他の職員に専決をせしめた者として監督を怠った責任があり、よって、管理者自ら損害の補填を行うとともに、この一連の不正事件について、実行し、起訴あるいは起訴猶予の処分を受けて責任が明らかな中村元消防長、井邑元人事企画課長、採用試験委員会の委員であった職員、不正採用をそそのかした市議会議員、この不正採用に関して贈賄等の働きかけをした依頼者、それに加担協力した大和高田市職員などのほか、被採用者の親族などとして関与の可能性が報道されている公務員・消防団員ら、また、今後明らかにされていくであろう一切の関係者に対して損害賠償を請求するなどして、上記の損害の補填を行うべきである。

(別紙 添付資料)

事実証明書 B-3 ・平成17年4月1日以降9月21日までに組合が支払った不正採用19名分(うち1名は7月11日まで)の給与等支給総額の概算表(1枚)

事実証明書 B-4 ・平成17年7月分、8月分、9月分についての給与支払調書兼領収書(6枚)と「平成17年度新規採用職員採用取消に伴う9月分給与日割り計算」(1枚)

事実証明書 C−4 ・平成17年9月26日以降10月20日までの主要な報道記事・9/27産経、9/28読売ほか、10/1奈良ほか、10/15奈良(4枚)

事実証明書 D−1 ・平成17年度中和広域消防組合の歳出予算要求書(9枚)

事実証明書 E−1 ・平成17年度共済組合についての掛金・負担金率表(1枚)

事実証明書 F−1 ・平成16年度公務災害補償についての確定負担金報告書(1枚)

事実証明書 G-1 ・平成17年度奈良県消防学校の初任教育入校負担金「支出負担行為伺書兼支出命令書」「戻入命令書」「請求書」(3枚)

事実証明書 H−1 ・監査請求書と意見陳述書の金額まとめ(1枚)

 以上のとおりの意見陳述書が提出された。

2 監査対象事項

 措置請求書及び事実証明書に記載されている事項、また新たに請求人から提出された請求事項並びに請求人陳述の内容も監査対象として勘案し、監査請求の対象事項を次のとおりとした。

(1)消防職員の採用方法において、(財)日本人事試験研究センターへ支払った一次試験の委託料支出について

(2)不正に採用された職員19名が消防学校で技術を学んでいた、平成17年4月から同年9月21日までの6ケ月間に支払った給与・手当て等の支出について

(3)不正に採用された職員19名に係る奈良県消防学校に支払った初任教育負担金に係る支出について

(4)不正に採用された職員19名に係る奈良県消防学校入校中の旅費の支出について

(5)不正に採用された職員19名に係る貸与された被服費の支出について

(6)不正に採用された職員19名に係る定期健康診断費用の支出について

(7)不正に採用された職員19名に係る共済組合負担金の支出について

(8)不正に採用された職員19名に係る公務災害補償基金の支出について

 以上の損害の補填を管理者前川正に求め、また管理者には、不正採用事件に関係する一切の関係者に対して損害賠償を請求することを求めている。

3 監査対象部局

 監査対象部局を中和広域消防組合消防本部 総務部人事企画課並びに関係者(管理者、元消防長、元人事企画課長及び試験委員)とした。

4 監査の方法

 (1)関係職員の陳述

   平成17年11月7日に、自治法第242条第7項の規定による中和広域消防組合管理者 前川正から陳述の聴取を行った。

 (陳述の主な要旨)

   平成17年4月1日に、消防職員として採用された職員に対して支払った給与、またそれに要した費用の支出は妥当なもので違法性、不当性はないものであるとの陳述があった。

 (2)関係職員からの意見書の提出

   元消防長、元人事企画課長及び試験委員から平成17年度新規消防職員採用試験に係る意見書を提出させ、また不正防止対策委員会から対策委員会が実施した事情聴取書類の提出をさせた。

5 事実関係の調査

 (1)消防長の権限

   消防職員とは、消防組織法(昭和22年法律第226号。以下「組織法」という。)第4条第5号に「消防吏員その他の職員をいう。」と規定され消防本部及び消防署に置かれる職員を総称するものである。

   消防職員の身分取扱に関しては、組織法第14条の3第1項に、「消防長は市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する。」と規定されている。

   任命とは任用と同意語で、地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「地公法」という。)第17条第1項の規定により、「採用、昇任、降任、転任をいう。」とあり、採用は、消防長の任命行為である。

 (2)任命の取消しについて

   平成17年度新規採用職員として、平成17年4月1付で中和広域消防組合に23名の消防吏員が採用された。その後、この採用試験において元消防長及び元人事企画課長により不正な点数の改寛がなされ、本来不合格となるべき19名もの者が採用されたことが警察当局の調べで判明した。

   これは、組織法及び地公法に違反した採用行為として職員の任用に係る重大な瑕疵の事実が認められる。この行為をなした元消防長及び元人事企画課長は逮捕され、違法な行為により採用されたことが明白となった18名(1名は、7月11日付辞職)について平成17年9月21日に採用を取消したものである。

第4 監査の結果


  本件請求の監査結果については、合議により以下のとおり決定した。

  本件請求に係る措置請求は、理由のないものと判断し、棄却する。

  以下、その理由について述べる。

 1 判断


 組織法第14条の3第1項の規定に基づき、「消防長は市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する。」となっており、主体は消防長となり、消防長みずからの名において、地公法第20条の規定に基づき平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用試験を実施し、その試験結果に基づいて採用という権限範囲内の行為を管理者等の承認を得て行なった任命行為である。

 平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用については、平成17年4月1日に任用の辞令を交付し、その後において地公法第15条の任用の根本基準に反する改竄という不正行為による採用が明白となった採用者18名(1名は平成17年7月11日辞職)の採用を平成17年9月21日に取消した。

 本件採用の取消しは、その職員の過去に遡って採用を取消すのではなく将来に向かって解除するものであり、採用が取消された平成17年9月21日までは、中和広域消防組合の消防職員としての身分を有しており、公金の支出については違法、不当な支出ではなく管理者の支出命令による適法な支出である。

 (1)平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用試験の委託料について

   一次試験委託料については、平成16年度予算案を平成16年2月定例会で議決され、有効に成立した平成16年度予算の中で、「平成17年  度中和広域消防組合消防吏員募集要綱」を策定し、管理者決裁を受け(財)日本人事試験センターと平成17年度中和広域消防組合消防吏員採用試験問題の提供及び採点について、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号の規定により契約し、平成16年10月17日に一次試験、平成16年11月21日に二次試験を実施。その試験結果に基づいて平成17年4月1日付で23名が採用されたものであり、一次試験委託料が支出されたのは不当ではない。

(2)平成17年9月21日に採用を取消された消防職員の給与・手当等について

  給与・手当等については、平成17年4月1日付で中和広域消防組合消防吏員として採用され、不正行為が明白となり平成17年9月21日付で採用取消となるまでは、中和広域消防組合消防吏員として任用されており、中和広域消防組合の一般職の給与に関する条例に基づき労働の対償として支出されたものであり違法、不当ではない。

(3)奈良県消防学校に対する初任教育負担金について

  新たに採用された消防職員は、消防長の職務命令により、奈良県消防学校において消防の責務を正しく認識させるとともに、人格の向上、学術技能の習得、体力の練成、規律の保持、協同精神の涵養を図り、もって公正明朗、かつ、能率的に職務を遂行し得るようその資質を高める目的で奈良県消防学校消防職員初任教育を受ける。

  初任科教育負担金については、奈良県との契約に基づいて支出されたものであり違法、不当ではない。

(4)奈良県消防学校において初任教育受講中の入校旅費について

  入校旅費については、消防長の職務命令により、奈良県消防学校において初任教育を受けるため中和広域消防組合の職員等の旅費に関する条例に基づき支出されたものであり違法、不当ではない。

(5)被服費について

  被服費については、平成17年4月1日付で中和広域消防組合消防吏員に採用された者は、組織法第14条の4第2項の規定に基づき、中和広域消防組合消防吏員服制規則(平成13年規則第5号)で定める制服等を、中和広域消防組合職員給与品及び貸与品支給規程(平成12年消防長訓令甲第1号)により給与されたものであり違法、不当な支出ではない。

(6)定期健康診断費について

  定期健康診断費については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づき、事業者は労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境 の形成を促進するため健康診断を実施する義務がある。

  現に実施した健康診断は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号の規定に基づき契約し、支出されたものであり違法、不当ではない。

(7)共済組合負担金について

  共済組合負担金については、地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)に基づき、地方公務員の病気、負傷、出産、休業、災害、 退職、障害若しくは死亡又はその被扶養者の病気、負傷、出産、死亡若しくは災害に関して適切な給付を行い、相互救済を目的とし、地方公務 員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに、公務の能率的運営を図る目的により支出されたものであり違法、不当ではない。

(8)公務災害補償基金の支出について

  公務災害補償基金の支出については、地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)に基づき、地方公務員等の公務上の災害又は通勤 による災害に対する補償の迅速かつ公正な実施を確保するため既に支出されたものであり違法、不当ではない。

2 結論


 以上のとおり、本件措置請求の各支出についてはいずれも違法な支出でなく、措置の理由がないものと判断し、棄却する。

 


(4)中和広域消防組合職員不正採用事件に関する
損害賠償請求を怠る事実の違法確認住民訴訟

奈良地裁「平成17年(行ウ)12号」訴状(2005・12・20)

 

訴訟代理人弁護士は、石川量堂氏・島由美子氏のお二人に相良博美氏が加わって下さり、3人となっています。

訴状

当事者目録

 別紙当事者目録記載のとおり。

請求の趣旨

1 被告中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克が、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、木綿谷弘之、山本善一、林多美子、細井利悦、前川正らに対して、同人らは連帯して金3414万7631円を支払えとの請求をすることを怠ることは違法であることを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

請求の原因

第1 当事者等

1 原告ら

 原告らはいずれも橿原市民であり、原告奥田寛は、橿原市議会議員(無所属)である。

2 被告

 被告は中和広域消防組合の管理者職務代理者である。中和広域消防組合は、消防団及び消防水利施設に関する事務を除く、組合市町村の消防事務を共同処理する、地方自治法284条1項2項所定の一部事務組合である。

 中和広域消防組合は、大和高田市、橿原市、御所市、高市郡高取町、高市郡明日香村の各地方公共団体によって組織される(中和広域消防組合規約第2条)。

 中和広域消防組合の管理者は御所市長前川正であったが、同人が、平成17年11月14日、辞職したため、地方自治法152条1項に基づき被告が同組合管理者職務代理者に就任したものである。

3 中和広域消防組合の職員不正任用に関わった者ら

(1) 市議会議員ら

 長谷川雅章、高見精一はいずれも橿原市議会議員、森村修史、萬津力治はいずれも大和高田市議会議員であり、小松久展は御所市議会議員であった。

(2) 中和広域消防組合の職員

 中村隆之は、平成17年度職員採用試験当時、中和広域消防組合において、消防本部の事務を統括し消防職員を指揮監督する権限を有する消防長(消防組織法13条1項、2項)の職にあり、中和広域消防組合職員の任命権者であった(同法14条1項)。

 井邑雅則は、上記試験当時、人事企画課長であり、平成17年度の職員採用の試験委員会の委員であった。

(3) その他

 林多美子は、自己の親族の不正任用を森村修史に依頼する目的で、大和高田市職員である木綿谷弘之及び山本善一に森村修史を紹介してもらい、森村修史に不正再任用の働きかけを依頼して、同人に賄賂を交付した。

 細井利悦は、自己の親族の不正任用の働きかけを長谷川雅章に依頼し、賄賂を交付した。

第2 中和広域消防組合による平成17年度職員任用とその取消

中和広域消防組合においては、人事委員会は設置されていないが、平成17年度の職員採用は、競争試験の方法が採用され、一次試験(教養と作文の筆記、適性検査)が、平成16年10月17日に実施され、286人が受験した。2次試験(面接と体力テスト)は、同年11月21日に実施され、23名が合格とされた。

 上記23名は、平成17年4月1日付で、中和広域消防組合の消防職員として任命された。
しかし、上記合格者23人中19人について、地方公務員法15条の任用の根本基準に反する、試験結果の改竄という不正行為によって採用されたことが明らかとなり、中和広域消防組合は、平成17年9月21日、上記19人中、同年7月11日付で辞職した1人を除く18人につき採用を取り消した。

第3 違法行為の存在ー中和広域消防組合の職員不正任用

 平成17年度の採用試験において、不正任用された19名の関係者である林多美子、細井利悦、木綿谷弘之及び山本善一らは、上記19名の一部の者が被告職員として任用されるよう森村修史、長谷川雅章らに依頼あるいは依頼を斡旋し、これを受けた森村修史、長谷川雅章及び、林多美子ら以外の関係者から依頼を受けた高見精一、萬津力治、小松久展らは、こもごも被告の消防長である中村隆之に不正任用を働きかけ、中村隆之が、人事企画課長であった井邑雅則に命じて試験結果を改竄させた。

上記不正な採用試験に基づく、上記19名に関する平成17年4月1日付の職員任用行為は、後記のとおり違法無効である。
中村隆之は、任用権者として事情を知悉していた者である以上、上記19名については、当然任用すべきでなく、かつ、任用行為後は直ちに当該任用行為の無効を確認し、事実上あるいは外形上の勤務関係(民間企業で言う雇用関係)を解消すべきであったのに、平成17年4月1日付の任用行為後もこれを怠った不作為の違法が認められる。

 前川正は、平成17年度採用試験当時及び平成17年4月1日当時、中和広域消防組合の管理者であった以上、任用行為が適性に行われるよう監督する義務があったのにこれを怠り、中村隆之らの不正任用行為を過失により看過し、任用に対する承認(消防組織法14条の3第1項参照)を行うべきでないのにこれを行った違法がある。
また、中村隆之及び井邑雅則が、平成17年5月29日、平成17年度採用試験の結果の改竄行為に関して、虚偽有印公文書作成・同行使の被疑事実で逮捕された際、前川正は、管理者として、直ちに事実を調査して、任用行為後は直ちに当該任用行為の無効を確認し、事実上あるいは外形上の勤務関係を解消するよう指示ないし命令すべき義務があったのにこれを怠り、漫然と同年9月21日まで、上記19名との事実上の勤務関係を継続させた違法がある。

中村隆之は、収賄罪の他、地方公務員法(同法15条、61条2号)違反で起訴され、また、長谷川雅章ら5名の市議会議員は、いずれも地方公務員法(同法15条、61条2号、62条ーそそのかし)違反等で、林多美子、細井利悦は贈賄で起訴されており、井邑雅則、木綿谷弘之及び山本善一が起訴猶予となった。

上記諸事情に鑑みれば、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らの上記行為は、社会的に見て、上記19名を中和広域消防組合の職員として不正に任用させ、それらの任用関係を維持し、中和広域消防組合に損害を与えることを目的とする一連の行為として、一体の共同不法行為であると評価できる。

第4 任用の無効

1 職員採用における能力主義の原則

地方公務員法においては、任用の根本基準として、同法の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならない旨を定めている(同法15条)。これは、成績主義の原則を任用について明らかにしたものであって、職員の採用や昇進などについては試験の成績あるいは勤務成績の評定結果に基づいて行うことにより、人事が情実や圧力によって、または任命権者の恣意によって左右され、そのことが任用の公正を阻害し、ひいては地方公共団体の業務の適性な執行を妨げる事態を防止しようとする。また、能力主義を貫徹することによって地方公共団体の能率確保、ひいては公益の増進を図らんとするものである。この原則に反して、任用を行った者は、3年以下の懲役又は罰金に処せられることとされている(同法61条2号)。

 人事委員会を置かない地方自治体においては職員の採用または昇任は、競争試験あるいは選考のいずれの方法によっても差し支えないものとされている(同法17条4項)。小規模な地方自治体においては競争試験では優秀な人材を集めることが不可能となることも多いので、選考という便宜的な方法により、人材確保の途が開かれているのである。

2 中和広域消防組合における平成17年度の職員採用の効力

 中和広域消防組合には、人事委員会が設置されていないが、平成17年度の職員採用においては、採用試験委員会を設けて競争試験を実施した。

 したがって、被告は、平成17年度の職員採用においても、能力主義の原則を貫徹しなければならず、これに反する行為は、任用の公正ひいては地方公共団体の業務の適性な執行を妨げ、地方公共団体の能率確保、公益の増進を阻害する虞のあるものとして、刑罰法規にも反する重大な違法性を有する行為である。

 しかるに、職員の任命権者である消防長であった、中村隆之は、故意に試験結果を改竄させて上記原則を犯し、収賄罪等の他、地方公務員法15条、61条2号に違反するものとして起訴されている。

 上記19人に対する本件任命行為は、明らかに地方公務員の任用の根本基準に関する法規に違反している点で重大であるというだけでなく、任命権者がこうした重大な法令違反の事実を認識しつつ、違法行為に積極的に加担していたこと、また、不正採用された側も自分が不正採用されたことを知りうる状況にあったこと、などを考慮するとその違反は極めて重大であるので、当然に無効というべきである。

第5 違法行為による損害の発生

1 損害

 長谷川雅章ら4名の市会議員及び中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らの上記第3記載の一連の違法行為の結果、中和広域消防組合には次の(1)〜(7)記載の各損害が発生した。その合計金額は金3414万7631円である。

(1) 中和広域消防組合は、平成17年9月21日まで、上記19名(但し、うち1名は7月11日に辞職。)に対する給与及び諸手当の支払いを行った。その金額は2128万1173円に上る。

(2) 中和消防学校は、上記19名に対し、初任科教育受講中の入校旅費132万7014円を支払った。

(3) 中和広域消防組合は、上記19名に関する初任科教育負担金440万3829円を奈良県消防学校に対して支払った。

(4) 中和消防組合は、上記19名に関する被服費として株式会社ナカジマ等に対し、合計231万4200円を支払った。

(5) 中和消防組合は、上記19名に関する定期健康診断費として、3万8000円を財団法人奈良県健康づくり財団に支払った。

(6) 中和消防組合は、上記19名に関する共済組合負担金として475万2132円を奈良県市町村職員共済組合に支払った。

(7) 中和消防組合は、上記19名に関する公務災害補償基金負担金として3万1283円を地方公務員災害補償基金に対し支払わなければならない。

2 因果関係

 社会通念に照らして、上記第3記載の一連の行為がなければ、上記各損害は発生しなかったという意味で、加害行為と損害との間に因果関係が認められる。

第6 怠る事実

 中和消防組合は、長谷川雅章ら4名の市会議員及び中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一、前川正らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

 ところが、被告中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克は、上記損害賠償請求権の行使を怠っている。

第7 監査請求

 原告らは、平成17年9月26日、中和広域消防組合監査委員らに対して住民監査請求を行い、監査委員らは、同年10月7日、適法な監査請求としてこれを受理した。

2 しかし、同監査委員らは、同年11月22日、本件措置請求の各支出はいずれも違法な支出ではなく、措置の理由がないとして、上記監査請求を棄却した。

第8 結論

 よって、原告らは、地方自治法242条の2第1項3号、2項に基づき、被告が、長谷川雅章、高見精一、森村修史、萬津力治、小松久展、中村隆之、井邑雅則、林多美子、細井利悦、木綿谷弘之、山本善一及び前川正らに対して、同人らは連帯して金3414万7631円を支払えとの請求をすることを怠ることは違法であるとの確認を求める。

立証方法

 甲第1号証 監査請求書

 甲第2号証 意見陳述書

 甲第3号証 監査結果

 甲第4号証 中和広域消防組合規約


平成17年12月20日

原告ら訴訟代理人 弁護士  石川 量堂


同    島 由美子


奈良地方裁判所 御中


  以上

 


(5)住民訴訟・被告側(中和広域消防組合)提出の答弁書(2006・03・01)

平成17年(行ウ)第12号 怠る事実違法確認請求事件

原告 奥田寛 外23名

被告 中和広域消防組合管理者職務代理者吉田誠克

答 弁 書


平成18年3月1日


奈良地方裁判所民事部合議1係 御中

〒630−8267 奈良市大豆山突抜町16番地
          あすか法律事務所(送達場所)
          電話 0742−22−4301
          FAX 0742−23−3562

          上記被告訴訟代理人
          弁 護 士   中本 勝
          弁 護 士   緒方 賢史
          弁 護 士   西村 甲児


第1 請求の趣旨に対する答弁

1原告の請求を棄却する

2訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

第2 請求の原因に対する認否

1 請求の原因第1の事実は認める。

2 同第2の事実も認める。

3 同第3第1項の事実も認める。

 同第2項の主張は争う。原告主張の19名に関する任命行為は無効ではなく,取り消しうべき行為であったに過ぎない。

 同第3項の主張も争う。前川正の行為に原告主張の違法はない。

 同第4項の事実は認める。

 同第5項の主張は争う。被告の主張で述べるとおり,長谷川雅章ら12名に共同不法行為は成立しない。

4 同第4の主張のうち,不正に採用された19名に対する任命行為が無効であるとの主張は争う。

5 同第5の事実のうち,原告主張の各金員が支出されたことは認めるが,それが損害であることは否認する。同金員は適法に支出されており,中和広域消防組合にとって損害に当たらない。

6 同第6の主張は争う。中和広域消防組合は長谷川雅章ら12名に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しておらず,したがって,被告がその行使を怠っている事実もない。

7 同第7の事実は認める。


第3 被告の主張

 本件において,中和広域消防組合の職員採用試験の試験結果が不正に改竄され,本来採用されるべきでなかった19名について任命行為がなされてしまったことは事実である。しかし,これらの19名に対する任命行為は取り消しうべきものであったに過ぎず,採用が取り消されるまで(採用取消以前に辞職した1名については辞職するまで)同19名は消防職員としての身分を有していたのであるから,これらの19名に関する本件各費用の支出は適法であり,中和広域消防組合に損害は発生していない。

 一般に,無効な行政行為とは,自己の判断と責任においてこれを無視し,いつでも法定の手続に拘束されることなく否認することができる行為であるとされ,取り消しうべき行政行為とは,違法ではあるが一応有効なものとして存続し,権限のある行政庁によって取り消されて初めてその効力を失う行政行為であるとされる。そして,両者の区別基準としては,その違法が行政行為の無効をもたらすほどに重大かつ明白なものであるかが問題とされている。

 本件では,消防組織法14条の4第1項の定めるところにより,地方公務員法の規定に基づいて採用試験が実施され,その試験結果を基にして,消防組織法14条の3第1項によって消防長の任命行為が行われているのであるから,外形的には法律の手続に則った任命行為が行われている。また,不正に採用された19名自身は不正行為に関わっておらず,自己が不正に採用された事実さえ認識していなかった。さらに,消防職員たる身分は,あくまで採用候補者名簿に登載された者に対する中和広域消防組合の採用の意思表示とこれに対する承諾によって取得されるものであり,採用拭験に合格と判定されることによって当然に消防職員たる身分を取得するわけではないから,試験結果の改竄と消防職員の身分取得の関係は間接的であるとも言える。

 以上のことからすれば,本件19名に対する任命行為の違法性は,それが当然無効とされるほどに重大かつ明白なものとは言い難く,同行為は取り消しうべき行為に過ぎないのである。

 そうであれば,上記19名は,採用が取り消されるか辞職するまでは消防職員としての身分を有していたのであり,消防職員たる身分に基づいて支出された本件各支出は適法である。

 また,実質的に見ても,消防職員としての身分を失うまでの期間,上記19名は上司の監督及び命令に服して与えられた業務を行っていたのであり,これは中和広域消防組合にとってはこれらの19名から労務の提供を受けていたことに他ならないのであるから,同19名に支払われた給与及び諸手当について損害であるとの主張は当たらない。給与及び諸手当以外の入校旅費,被服費,定期健康診断費,各種負担金についても,上記19名の労務の提供に付随して当然必要となる経費なのであるから,同様に損害ととらえるのは失当である。

 以上述べたとおり,本件においては中和広域消防組合に損害は発生しておらず,原告の請求には理由がないので,速やかに棄却されるべきである。

附 属 書 類

1 訴訟委任状 1通

 


(6)住民訴訟・原告側提出の第一準備書面・答弁書に対する反論(2006・05・31)

平成17年(行ウ)第12号

原告 奥田 寛
他22名 

被告 中和広域消防組合
管理者職務代理者
吉田 誠克

平成18年5月31日

上記原告ら訴訟代理人
弁護士 相良博美
同  石川量堂
同  島由美子

奈良地方裁判所合議係 御中

第1準備書面



1 原告は、平成17年度において、不正に任用された者19名に関する任用行為は無効であると主張してきた。その点について、本件の不正任用の実態を踏まえながら、以下敷衍して論ずる。

2 職員任用行為の性質は行政行為

 地方公共団体による職員の任用行為については、任命権者の優越的な立場を認める行政行為説と当局と職員との対等な立場を認める公法上の契約説とが対立する。しかし、この点は行政行為が妥当である。なぜなら、公務員の身分は分限規定によって保障され、自由な合意、契約としての取扱がなされていないこと(例えば、定年制は法律事項とされ、一方的な契約解除の自由がない)、労使対等の原則の適応がないこと(地方公務員法58条3項)、公務員の服務上の義務が法定されていること、任用の根拠となる法律(地方自治法172条2項、地方教育行政の組織及び運営に関する法律19条7項、消防組織法14条の3第1項等)が任命という語を使用していること、任用について行政不服審査及び行政訴訟が認められていることに鑑みれば、職員と当局との間の対等な関係は認められず、法律上も任命権者の優越的立場が認められるからである。

3 行政行為が無効となる場合

(1)行政行為の公定力と暇庇ある行政行為の効力ー原則無効とならない。

 行政行為には公定力があるので、行政行為の堀庇は原則として取消原因となるに過ぎない。しかし、瑕疵が重大明白な場合、例外的に当該行政行為は無効となる。

 行政行為に公定力が認められ、瑕疵があっても無効とされず、権限ある国家機関が正式に取り消すまで有効とされるのは、行政行為の暇庇の判定には多かれ少なかれ専門技術的な判断が必要とされるからである。すなわち、各人の判断で国民がこれを無効と認定し、行政行為を無視することができるとすると、その判断がバラバラになって、行政の実効性と信頼性が損なわれる。そこで現行法は、瑕疵の有無については、専門機関の判断に委ね専門機関が正式にこれを取り消すまでは、何人も行政行為を尊重して行動すべきこととして、行政法秩序の安定を期していると見る。

(2)行政行為が無効となる場合

 公定力の根拠をこのように考えると、行政行為が当該行為の根幹にかかわる重要な要件に違反しており、しかもそのことが客観的に疑う余地のないほど明白であれば、あえて専門機関の判断をまつまでもなく、瑕疵の認定を通常人の判断(具体的には通常人を代表する民事裁判官)に委ねてもまずあやまることはない。

 したがって、行政行為に重大な瑕疵があり、その瑕疵が通常人の目から見ても一見して容易に看取できるときは、これを例外的に無効と扱い、その認定を裁判所の判断に委ねても差し支えない。すなわち、重大明白な瑕疵のある行政行為に限って無効とされる。

(3)行政行為が無効となるための要件一瑕疵の明白性

 行政行為に重大明白な瑕疵があると言えるためには具体的には次のような要件が必要であるとされる(最高裁昭和36年3月7日第3小法廷判決・民集15巻3号381頁)。

@ 無効原因たる重大・明白な違法性とは処分要件の誤りについてのものである。

A 明白性の有無の判断の基準時は処分成立時である(処分成立時において処分要件の明白な誤認があったといえるか。)。

B 明白性とは外形上、客観的に明白であること(処分要件の誤認が外形上、客観的に明白であったこと)、すなわち、何人の判断によってもほぼ同一の結論に達しうる程度に明らかであることである(何人の目にも明白であること、あるいは、誤認が一見して看取しうることといった表現も用いられている。)。

C この明白性の有無の判断は、行政庁が、怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうか、とは関係がない。

(4)そこで次に、本件任用行為について上記(3)の要件が備わっているか否か、すなわち、任用行為の無効性を検討する。

4 本件任用行為の無効性

(1)処分要件の誤認の有無

本件任用行為については、任用の根本原則である成績主義の原則からの大きな逸脱があり、処分要件を欠くにもかかわらず、成績主義に適うとして処分行為(任用行為)を行っており、その意味で処分要件の誤認が認められる。

 以下、理由を述べる。

 成績主義の原則(地方公務員法15条)

(ア)成績主義は、行政行為たる任用行為の処分要件である。

 公務員の任用について、特に根本基準として成績主義の原則がうたわれているのは、人材確保と育成の要請及び人事の公正の確保の要請があるからである。

 そしてそれらの要請の重要性に鑑みれば、成績主義の原則は、行政行為たる任用の処分要件というべきである.

 そもそも、成績主義の原則の基礎となるのは、人材確保と育成の要請及び人事の公正の要請である。

(イ)人材確保と育成の要請

 地方公共団体の運営が効率的に行われるためには、少数精鋭主義によって公務能率を最大限に発揮することが重要である。そして少数精鋭主義による公務能率の増進をはかる上で欠くことのできないのは、優秀な人材の確保と、確保された人材の育成である。優秀な人材をえるための具体的な方法は職員の採用に当たって広く人材を選抜すること、すなわち、職員採用のための競争試験または選考に際して能力主義に徹することであり、優秀な人材を育成する具体的な方法の一つは、能力主義によって登用を行い、よりすぐれた人材に行財政運営の責任と権限を与えることである。

 このように、任用における成績主義の原則は、地方公共団体の能率を向上させ、ひいては住民福祉を増進するための絶対的な要件であるといってよいのであり、この原則が任用についてとくに重視されている理由の一つであるということができる。

(ウ)人事の公正の確保の要請

 人事行政にとって極めて重要なことの一つに、人事は公正でなければならないことがあげられる。そして人事の公正を妨げるものとしては情実人事の弊害が大きい。成績主義(メリット・システム)に対立する概念として猟官主義(スポイルズ・システム)があるが、これは任命権者などの縁故や個人的なつながり、信頼関係に基づいて任用する制度であり、選挙に伴う論功行賞などにつながる。今日の地方公務員制度においても副知事や助役の選任などは特別の信頼関係に基づいて行われており、その職の性質上合理性があると考えられるが、一般の職員についてスポイルズ・システムをとることは、諸外国における官僚制度の歴史やわが国の戦前における政党政治下の実際から見て、その長所よりも弊害の方が多いと言われており、このような過去の経験にかんがみ、スポイルズ・システムによる情実人事の弊を排除するために任用上の成績主義の原則が強調されている。

(エ)成績主義の原則に反する任用は無効である。

 成績主義の原則は、上記のとおり、地方公共団体の能率を向上させ、ひいては住民福祉を増進するための絶対的な要件であり(人材確保と育成の要請)、また、スポイルズ・システムによる情実人事の弊の排除に必要不可欠である(人事の公正の確保の要請)。すなわち、成績主義は、職員任用の重要な原則であり(地方公務員法15条)、罰則(地方公務員法61条2号、62条)をもってしても確保すべき重要原則である。したがって、成績主義の原則に反する任用は、行政行為たる任用の処分要件を欠くというべきである。

 本件任用行為は成績主義の原則に反する。

(ア)平成17年度職員採用試験の実態

 平成17年度職員採用にかかる1次試験は、教養・消防適性・作文で行われ(甲8、甲14の供述調書添付の「第1次試験成績一覧表」)、2次試験は面接試験と体力測定で行われた(甲8、甲14の供述調書添付の「第2次試験成績一覧表」)。

 平成16年10月17日に実施された平成17年度中和広域消防組合吏員採用の1次試験の合格者は35人であった(甲8)。1次試験に不正に合格した者は19人である(甲5、甲7)。これらの者のうち、現時点で開示のあった刑事記録中成績が判明している18名について見ると、下記のとおりである(甲14の供述調書添付の「第1次試験成績一覧表」、同一覧表の上から順に下記のとおりa〜rと表示)。すなわち、受験者286人中最下位の者も含め200位台の者が9名、同じく100位台の者が8名であり、同じく55位が1名であったが、すべて35位以内に成績が改窟された(甲8、甲14の供述調書添付の「第1次試験成績一覧表」)。

 

真実の成績(順位)

改竄後の成績(順位)

a

286(受験者中最下位)

33

b

279

31

c

272

30

d

261

29

e

208

22

f

208

22

g

216

25

h

234

26

i

194

22

j

222

26

k

173

20

l

168

21

m

156

18

n

150

18

o

130

15

p

128

15

q

132

15

r

55

33




 2次試験は同年11月21日に実施されたが、ここでも点数が改竄されている(甲8、甲14の供述調書添付の「第2次試験成績一覧表」)。上記19名の1次試験不正合格者は、平成17年4月1日付ですべて消防吏員として採用された。

(イ)平成17年度職員採用は成績主義の原則に反する。

 成績主義の実現は、「受験成績、勤務成績その他の能力の実証」に基づいて行われる(地方公務員法15条)。「受験成績」とは、職員又は職員になろうとする者の競争試験及び選考の成績であり、競争試験は、「筆記試験により、若しくは口頭試問及び身体検査並びに人物性行、教育程度、経歴、適性、知能、技能、一般的知識、専門的知識及び適用性の判定の方法により、又はこれらの方法をあわせ用いることにより行う」とされる(地方公務員法20条)。

 平成17年度職員採用に関する第1次及び第2次試験の改竄状況は前記(ア)記載のとおりであって、大幅な改蜜が行われている。不正合格者19名は、真実の成績に基づくならば、到底合格できない低い得点の者ばかりであり、1次試験の成績が最下位の者も含まれている。2次試験でもこれらの者について点数が大幅に水増しされている(甲14の供述調書添付の「第2次試験成績一覧表」)。

 当時、人事課長であった井村雅則は、不正合格者の1次試験の成績に関し、「確認してみると、皆成績が悪く、『こんな出来の悪いの採用したら、組織がよくならんで。』と思いました」と供述している(甲8、検面調書第6項)。

 また、当時、消防長であった中村隆之も、萬津力治議員から合格させることを依頼されたa、c、小松久展議員から同じく依頼されたd、高見精一議員から同じく依頼されたb、長谷川雅章議員から同じく依頼されたeの5人については特に成績が悪かったため、上記4人の議員に試験結果を説明して合格させることはできないことを理解してもらおうとしたほどである(甲7、検面調書第11項)。

 採用試験担当者や任用権者の言葉を借りるまでもなく、競争試験の真実の結果と平成17年度の職員任用の結果は著しく乖離しており、これが成績主義(地方公務員法15条)に反していることは明らかである。

 その結果、任用権者である中村隆之、不正任用を働きかけた萬津力治、小松久展、高見精一、森村修史の各議員は地方公務員法(同法61条2号、62条)違反で有罪判決を受け(甲5、甲40、甲57)、長谷川雅章議員も同法違反等で起訴され公判中である。

(ウ)結論

 本件任用行為については、任用の根本原則である成績主義の原則からの大きな逸脱があり、行政処分たる任用行為の処分要件を欠く。それにもかかわらず、任用権者は、上記処分要件が具備されている偽装として任用行為を行った以上、処分要件の誤認(処分要件がないのにあると判断した)があったと法的に評価できる。

(2)処分成立時において処分要件の明白な誤認があったといえるか。

 処分権者(任用権者)であった当時の消防長中村隆之は、自ら不正任用を部下の井村雅則らに指示し、平成17年4月1日の時点で改窺された試験結果に基づいて任用行為(処分行為)を行った以上、処分成立時(平成17年4月1日)に処分要件の誤認(処分要件がないのにあると判断した)があったといえる。

(3)処分要件の誤認が外形上、客観的に明白であったといえるか。

 真実の試験結果と改潰された試験結果による任用との間には明らかな乖離があり、平成17年度に不正任用された19名が本来は採用試験で合格点に達していない者であることは何人にも明白である。したがって、処分要件の誤認が外形上、客観的に明白であったといえる。

(4)なお、明白性の有無の判断は、行政庁が、怠慢により調査すべき資料を見落としたがどうかとは関係がないとされるが、本件では、処分権者は調査すべき資料の存在(真実の試験結果)を明白に認識しながら、その内容を全く顧みないで不正任用を故意に行っている点で極めて悪質である。

(5)以上より、不正採用された19人に関する本件任用行為はいずれも無効である。

5 任用行為が無効な場合の法律関係

(1)任用行為が無効とされる典型的なケース

 欠格事由(地方公務員法16条)のある者を誤って任用した場合、その任用行為は明らかに法規に違反し、しかもその違反が極めて重大であるから無効であるとされる(行政実例昭和26年8月15日、地自公党第332号)。

(2)欠格事由ある者を採用したことを発見するまでに、長期の日時が経過した場合、様々な間遠が生じるが、これについて行政実例は次のように解している(行政実例昭和41年3月31日、公務員課長決定)。

ア 

欠格者の採用は当然無効である。
イ その間のその者の行った行為は、事実上の公務員の理論により有効(瑠庇ある行政行為の解釈)
ウ この間の給料は、その間労務の提供があるので返還の必要はない。
エ 
退職手当は支給しない。但し、組合に対する本人の掛金中、長期の分については、組合から本人に返還する(相当の利子をつける。)。短期の分については、医療給付があったものとして相殺し、返還しない。
オ 異動通知の方法としては、「無効宣言」に類する「採用自体が無効であるので登庁の要なし」とするような通知書で足りる。

(3)上記オについては、無効な任用行為によって任用された者に、無権限の給与を受け取ったことによる不当利得が、地方公共団体に法律上の理由なく労務の提供を受けたことによる不当利得があり、それぞれにその価額の返還を請求すべきものであるが、結果的には両者を等価のものとみなして相殺することが実際的であると説明される(法制局意見昭和28年 法制局1発第61号)。

6 しかし、本件の無効な任用行為については、上記5の法理は妥当しない。

 欠格事由者(地方公務員法16条)を誤って任用した場合であっても、当然、成績主義の原則(地方公務員法15条)を踏まえて任用がなされるのが通常である。したがって、その者(欠格事由者)の提供する労務も支給される給与に見合ったものと見ることができ、上記5(3)のように労務と給付された給与との相殺という理論にも一定の合理性が認められる。

 これに対し、本件の場合、前記4(1)イのとおり、成績主義の原則に真っ向から反する任用がなされており、給与に見合う労務の提供は到底期待できない。

 また、本件不正任用がなされた後、それが取り消されるまでの期間、不正任用された者は、いまだ消防実務にはついておらず、研修を受けていたに過ぎない。研修も、将来実務についてその職務を遂行することが期待されているならば意味があるが、本件のように、不正任用され、後に任用の無効が確認され(あるいは取り消され)ることになる者に対する研修は、研修で得られた知識や技能を生かす機会がないという意味で無意味である。そもそも、不正任用された者が研修において適切に知識や技能を習得できるかどうかも極めて疑わしい。したがって、被告には不正任用された者の労務による利得はない。
 よって、不正任用者に研修は、知識や技能を習得させて適切な消防実務を遂行させるという目的の達成は期することができず、その間、給与を支払うこと自体組合にとって損失である。

以上

 


(7)住民訴訟・被告側提出の準備書面・第一準備書面に対する反論(2006・06・30)

平成17年(行ウ)第12号 怠る事実違法確認請求事件

原告 奥田寛 外23名

被告  中和広域消防組合管理者安曽田豊

準 備 書 面


平成18年6月30日

奈良地方裁判所民事部合議1係 御中


被告訴訟代理人 弁護士  中本
  勝 
同     弁護士  西村 甲児



第1 本件任用行為が取り消しうべき行為であることについて
                                           l
 原告は,本件の19名に対する任用行為が無効であるとして,最高裁昭和36年3月7日判決を引用して縷々主張するが,そもそもこの判決を本件において原告の主張を根拠づけるものであるかのように引用することからして正確ではない。
 すなわち,同判決は,実際には所得がなかった者に対して税務署長が所得があったものとして課税処分をしたところ,原告が当該課税処分の無効確認を求めて訴えを提起した事案であるが,この事実において,原告は行政処分の瑕疵が明白かどうかは,事実審の最終口頭弁論終結時に,それまでに現れた資料に基づいて判断されるべきであると主張したのに対し,最高裁は,瑕疵が明白であるというのは,行政処分成立の当初から,外形上,客観的に明白である場合を指すと判示して,原告の訴えを退けたのである。

 これを本件についてみれば,本件の不正任用が後の調査ないし訴訟によって明らかとなったとしても,それをもって瑕疵が明白であるとすることはできず,本件任用行為がなされた時点で,その瑕疵が外形的,客観的に明白でなければ本件任用行為は無効とならないことを意味する。

 そして,同判決中の「行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかは,瑕疵の明白性の判定に関係がない」という部分についても,これを正確に引用すれば「瑕疵が明白であるかどうかは,処分の外形上,客観的に,誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであって,行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかは,処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく」とされているのであって,結局この部分は,瑕疵の明白性とは,その瑕疵が行政処分成立時に外形的,客観的に一見して看取し得るかどうかのみによって判断されるべきで,一見して看取し得るほどの明白性がない場合には,たとえその瑕疵が行政庁が当然行うべき調査によって判明し得るものであったとしても,それによって明白性の要件を満たすものではないということを判示しているのである。

 以上を要約すると,結局上記判決において真に規範とされるべき内容は,行政行為が無効となる要件としての瑕疵の明白性とは,行政処分成立時において,その瑕疵が外形上,客観的に明白であるかどうかのみによって判断され,行政庁が調査すれば瑕疵が判明する可能性があったとしても,それは瑕疵の明白性の判定において考慮されないということなのである。

 そうであれば,本件において,外形上は法律の手続に則って19名の任用行為が行われたことは既に答弁書で述べたとおりであるから,本件任用行為に瑕疵の明白性は存在しない。

 これに対し原告は,平成18年5月31日付準備書面8頁において,不正任用された19名が本来は採用試験で合格点に達していない者であることは何人にも明らかである」と主張するが,本件不正任用は後の捜査等によって明らかとなっていった事実なのであって,本件不正任用がその当初から何人の日にも一見して看取し得るほど明白であったとは言い難く,上記最高裁判例が求める瑕疵の明白性は到底満たし得ない。

 以上から,本件任用行為が無効ではなく,取り消しうべき行為に過ぎないことは明らかである。

第2 中和広域消防組合に損害が生じていないことについて

 また,仮に本件任用行為が無効であるとしても,中和広域消防組合は本件の19名から実際に労務の提供を受けていたのであるから,これら19名に支払われた給与及び諸手当は中和広域消防組合にとって損害ではない。このことも既に答弁書で述べたとおりである。

 原告は,平成18年5月31日付準備書面9頁以下において,欠格事由があるために任用行為が無効とされた場合についての行政実例を挙げた上で,本件任用行為にはそのような行政実例が適用されるべきではないとしているが,仮に本件任用行為が無効であるとしても,以下のとおり本件を上記行政実例と異なる取り扱いにすべき理由は全くない。

 原告は,本件に上記行政実例の適用が妥当しない理由として,欠格事由者は欠格事由が存在したとしても,成績主義の原則は踏まえて任用されているので,その提供する労務が支給される給与に見合っていると言えることを挙げるが,地方公務員法における欠格事由には,成年被後見人又は被補佐人であることや(地方公務員法16条1号),地方公共団体において懲成免職の処分を受け,当該処分の日から2年を経過していないこと(同3号)なども含まれており,このことからすれば,上記行政実例はその者から現実に給与に見合った労務が提供されていたかどうかは重視していないと言うべきである。そしてこれは,雇用契約の性質からはむしろ当然のことと言える。すなわち,雇用契約は請負契約などとは異なり,労務自体を契約の目的とする契約類型であり,被雇用者は雇用主に指定された時間内,その指揮命令に服して労務を提供すれば,その労務が成果を生み出したか否かとは関係なく給与が支払われるべき契約なのである。上記行政実例も,このような雇用契約の性質に鑑み,欠格事由者に対して支払われた給与について返還の必要はないとしているのである。

 そうであれば,本件の19名も,採用が取り消されるまでの間,その勤務時間内に上司の指揮命令に従って業務に従事していたことは同様なのであるから,欠格事由者と取扱いを異にすべき理由はないのである。

 また,原告は,本件の19名はその雇用期間中研修を受けていたに過ぎず,実際の消防実務についていたわけではないのであるから,中和広域消防組合にはこれらの19名の労務による利得はないなどとも主張するが,これについても,上記のとおりそもそも雇用契約においては被雇用者の労務によって雇用主に利得が生じたかどうかは給与支払いの要件ではないのであるから,その主張は失当と言ううべきである。

 以上から,中和広域消防組合に損害が発生していないことも明らかである。


(8)住民訴訟・原告側提出の第二準備書面(2006・09・12)

平成17年(行ウ)第12号

怠る事実の違法確認請求事件
原告 奥田 寛
他22名 

被告 中和広域消防組合
管理者   
安曽田 豊

平成18年9月12日

上記原告ら訴訟代理人
弁護士 相良博美
同  石川量堂
同  島由美子

奈良地方裁判所合議係 御中

第2準備書面

第1 任用行為の無効性

1 行政行為の無効性に関する最高裁判決

 行政法上の通説は、通常の瑕疵は取消原因にとどまるのに対して、重大かつ明白な瑕疵は無効原因であるとされている(原田尚彦「行政法要論」第六版179頁)

 先例とされている最高裁判決(昭和36年3月7日民集15巻3号381頁)は、「瑕疵が明白であるとは、処分成立の当初から、誤認であることが、外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。」とし、「瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取しうるものであるかどうかにより決すべきものであって、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。」と判示している。

 同判決は、立木の売却により収入を得ていない者に対して課された所得税額決定処分が誤認に基づくものであって重大な瑕疵があるとしながら、誤認は明白な瑕疵ではないとした原判決に対する上告審判決として判示されたものであるが、二つの問題点を有している。一点目は、瑕疵の認識の有無であり、二点目は瑕疵の明白性の主体についてである。

3 瑕疵の認識の有無について

 同判決は、行政行為を行った処分庁が、当該行政行為に瑕疵が存することを認識していなかったことを前提としており、処分時において処分庁が瑕疵の存在を認識していた場合を前提としたものではない。けだし同判決が判示した理論は、行った行政行為が瑕疵ある違法な行政行為であることを、処分時において処分庁が認識していない場合においても、当該行政行為に外形上客観的に明白な瑕疵があるときは無効となるとする理論だからである。

4 瑕疵の明白性の主体について

 この間題は、換言すれば、「処分成立の当初から、誤認であることが、外形上、客観的に明白である」とは、誰にとって明白か、という問題である。
 答は処分庁である。すなわち、処分庁にとって、処分の外形上、客観的に瑕疵の存在が明白であったか否かという問題であって、およそ一般通常人に瑕疵の存在が外形上、客観的に明白であったかどうかという問題ではない。
 したがって、処分時に行政庁が当該行政行為の瑕疵を認識している場合には、当該行政行為の瑕疵についての誤認の間遠は発生せず、当該行政庁にとって当該行政行為の瑕疵は客観的に明白であるといえる。

5 本件の場合

 成績主義に反するという、本件任用行為の瑕疵について、任用権者である消防庁は認識していたから、瑕疵についての誤認の問題は発生せず、当該行政行為の瑕疵は客観的に明白であるといえる。

6 瑕疵の重大性

 なお、行政行為の無効理論の条件の一つである瑕疵の重大性については、本件任用行為に重大な瑕疵が存する点は訴状並びに第1準備書面に述べたとおりである。

7 結論

 以上のとおりであり、本件任用行為は、取消処分を待つまでもなく当然無効である。

第2 取り消された行政行為は遡って無効である。

1 取り消された行政行為は遡及的に無効

 被告は、本件任用行為は取り消しうべき行為に過ぎないと主張するが、仮にそうであったとしても、取り消された行政行為はその行為時に遡って無効となる。

 行政行為の取消しは、訟争による取消しに限らず、行政行為が当初から違法であったと判明したときは、そのことを理由に処分庁は行為を取消す旨の意思表示をすることができ、またそうすべきであるとされる(原田尚彦「行政法要論」第六版188頁)。取り消された行政行為の効力は行政行為の当初に遡って無効となる(同)。この点、将来に向かって効力がなくなる行政行為の撤回とは異なる。

 瑕疵のある違法な行政行為は、取消しうべき行政行為と無効な行政行為に分類されるが、その違いは、取消しうべき無効な行政行為は取消行為という手続が必要であるのに対して、無効な行政行為は特段の取消行為を要しないという点だけである。

2 本件任用行為は取消によって遡及的に無効となる。

 したがって、本件任用行為が取消しうべき行為に過ぎないとしても、取消された以上は任用時に遡って無効となり、無効な任用行為に基づく給与等の支給もまた無効に帰する。

第3 給与等の支出により、被告には「損害」が発生している。

1 本件任用行為が無効であることは、原告らの平成18年5月31日付準備書面及び本書で詳述したとおりである。また、本件任用行為が後に取り消されたことにより、任用行為時に遡及して効力がなくなったことも前述のとおりである。

 本項では、本件任用行為の効力が遡及して効力がなくなった結果、中和広域消防組合が不正に任用された者らの任用を前提として支出した金員が、いずれも中和広域消防組合の損害に当たり、これらの損害を被告らは賠償すべき義務があることを述べる。

2 任用行為の無効と給与等の返還義務
 任用行為が無効である場合には、任用の時に遡って任用行為がなかったのと同じ状態になる。無効な任用行為から発生した法律関係は、原則として無効である。したがって、無効な任用行為から発生した給与等の支払も本来は無効であり、不正任用された者は給与等の返還義務を負うものと解すべきである。本件では、中消広域消防組合は、不正任用された者らに対し、次の7項目の費用を支出した。

@ 給与及び諸手当
A 初任科教育受講中の入校旅費
B 初任教育負担金
C 被服費
D 定期健康診断費
E 共済組合負担金
F 公務災害補償基金負担金

 上記@〜Fに関する支出について、被告に「損害」が発生したことを論ずる。

3 給与及び諸手当の支出に関する損害

(1) 昭和41年3月31日付公務員課長決定

 「欠格条項該当者の採用後の取扱」(昭和41.3.31公務員課長決定、 甲74)は、欠格者(懲役刑の言渡を受け、執行猶予中の者)が誤って職員に採用された事案の照会に対する回答として、採用後欠格者であることが発覚するまでの間に支給された給料は、「その間労務の提供があるので返還の必要はない。」と回答している。その理由は述べられていない。

(2) 昭和41年3月31日付公務員課長決定の問題点

 しかし、前掲回答は行政法と私人間の法律関係を律する民法とを混同したものであり、法理論的としては誤っている。
 地方公共団体における職員の任用行為の法的性質が行政行為であることは原告らの第1準備書面(第2項)で既に述べたとおりである。任用行為が行政行為であり、そこから生じる法律関係が「公法上の法律関係」である以上、給与の支払も私人間のように雇用契約から発生する賃金請求権に対応する賃金支払義務の履行ではなく、「公法上の法律関係」に基づく効果の一つである。
 また労務の提供も、雇用契約から発生する労務提供義務ではなく、「公法上の法律関係」から生じる職員の義務である。
 両者は、いずれも「公法上の法律関係」の顕れのひとつであり、両者が雇用契約のように対価関係にあるものではない。

(3) 昭和28年6月30日法制局回答の考え方

 「無効な任命行為に基づいて勤務した国家公務員の給与について」(昭和28年6月30日法制局一発第61号人事院事務総局管理局長あて法制局第1部長回答 甲75)も、任命の無効が明らかになるまでの間に欠格者に対して支給された給与は不当利得となるが、国はその返還請求権を行使しなくても直ちに財政法8条を含む財政関係法規に違反するものではない、とした。

(4) 昭和28年6月30日法制局回答の問題点

 前の法制局意見は、対価関係にない二つの行為を等価のものとみなして相殺することが実際的であるとの現実的見地から一種の擬制をしているものに過ぎない。すなわち、労務の提供が無効な任用行為に基づくとはいえ、欠格事由者について欠格事由を捕捉できずに誤って任用した当該職員に支出した給与の全額返還義務を課することは酷であるとの見識から、結果的妥当性を図ったものである。

 この考え方には、昭和41年3月31日付公務員課長決定と同様の問題点(前記(2)参照)がある。

 実質的に考えても、本件任用行為は、欠格事由者について欠格事由を捕捉できずに誤って任用した場合と異なり、本件任用行為は、任用権者が成績主義の原則(地方公務員法15条、61条2号、62条)に真っ向から反する任用であることを熟知しながら行われたものである。その結果、被告は、不正任用された者たちに給与その他の支出をしたが、被告に必要な人材を確保できなかった。それにもかかわらず、本件不正任用にかかわった任用権者及び議員らその他の不正関与者が民事上の責任を一切問われないことになるならば、著しく正義に反し、行政に対する信頼も大きく揺らぐことになる。

(5) 昭和28年6月30日法制局回答における例外

 昭和28年6月30日法制局回答も、欠格事由者任用の場合の給与の支出について、不当利得返還請求をしなくても必ずしも違法でないとする原則について一切の例外を認めない趣旨ではない。

 昭和28年6月30日法制局回答は、「右の者(註・欠格事由があるのに任用された者一原告訴訟代理人)の提供した勤務によって国がいかなる利益を受けたかを正確に判定することはきわめて困難であるのみならず、むしろ、この者はその職に適法に任命された者と実際上同様の勤務をなしたと認められるのが通常であろうから、その勤務とその職に対する俸給その他の給与との間に均衡を欠くと認められる特別の場合を除き任命の無効が明らかにされた後において右のごとき比較及びそれに伴う不当利得返還請求権の行使がなされないとしても、必ずしも財政法第8条を含む財政関係法規に違反するものとは考えられない」とする(甲75)。すなわち、昭和28年6月30日法制局回答その勤務とその職に対する俸給その他の給与との間に均衡を欠くと認められる特別の場合には、不当利得返還請求を行わなければならないことを示唆する。

 そもそも、地方公務員の任用について成績主義の原則が厳格にとられている以上、地方公務員の給与も、当該地方公務員が成績上位者に相応しい職務遂行能力があることを前提として、そうした優れた能力に基づく職務遂行に対する対価として支給されるものである。

 そうであるなら、成績主義の原則(地方公務員法15条、61条2号、62条)に則って、任用された者が偶々公務員の欠格事由者であった場合と異なり、そもそも成績主義の原則に反して任用された者は、成績主義に則って任用された者と同水準の公務を遂行すべき能力を欠く者である以上、その勤務とその職に対する俸給は均衡を欠くものというべきであって、給与を支出した地方公共団体に「損害」があったと見るべきである。

(6)本件の場合も、給与の支出により被告には損害が生じている。

 消防職員に求められる能力、知識と教育等

 消防職員は、次の(ア)〜(オ)等に見るとおり、相当高度の専門的な能力、知識が要求され、それに相応する教育訓練とそれに基づく職務が予定されている。

(ア)消防隊員は、「警防要員」「予防要員」「救急隊の隊員」「救助隊の隊員」としての所定の能力を備え、その専門性を高めること、複数の業務の知識、技術及び経験を経ることにより、職務能力を総合的に高めるよう努めること、が求められる(消防カの整備指針28条、甲68)。

(イ)「消防学校の教育訓練の基準」(甲71)によれば、新たに採用された消防職員はすべて、基礎的教育訓練である「初任教育」をうけなければならない(同基準3条1項2項)。初任教育の達成目標は、消防業務全般についての概要の理解を含む4項に及び(同基準4条、甲71)、そのための教科として法令制度や理化学を含む「基礎教育」、予防広報、危険物、消防用設備など専門知識を要する「実務教育」、等合計800時間の教育を受けなければならない(別表第1,甲71)

(ウ)消防職員は、特定の分野に関する専門的教育訓練である「専科教育」(消防学校の教育訓練の基準3条4号、5条、甲71)、幹部及び幹部昇進予定者に対して行う消防幹部として一般に必要な教育訓練である「幹部教育」(同基準3条5号、6条)が施される。

(エ)救急隊員は、傷病者が医師の管理下におかれるまで、傷病者の観察、応急措置を行う(救急隊員の行う応急措置等の基準3条、5条、甲70)。救急隊員が行う応急措置の内容は同基準6条以下で詳細に規定される(甲70)。

(オ)救助隊員は、消防職員のうち、「消防大学校において救助科又は消防学校の教育訓練の基準に規定する消防学校における救助科を終了した者」(救助活動に関する基準6条1号、甲69)または「救助活動に関し、前号に掲げる者と同等以上の知識及び技術を有する者として消防長が認定した者」(同基準2号、甲69)をもって充てなければならない(甲69)。


 不正任用された者の勤務とその職に対する俸給は均衡を欠く

 これに対して、本件任用行為によって不正に任用された者の1次試験の成績は、原告ら第1準備書面5頁〜7頁に記載したとおりであって、きわめて劣悪である。

 上記アで見るような、消防職員に求められる相当高度の専門的な能力、知識という点で、本件不正任用された者らが、成績主義の原則をふまえて適法に任用された職員と同等の相当高度の専門的な能力、知識を発揮できるとは考えられない。

 他方、職員に対する給与の額は、成績主義の原則をふまえて適法に任用された職員の能力を前提としている。

 したがって、不正任用された者らが任用後勤務に就いたとしても、その勤務能力は適法に任用された職員の能力とは同等に評価できず、不正任用された者の勤務とその職に対する俸給は著しく均衡を欠くというべきである。

 不正任用された者の教育訓練は被告に利益をもたらさない。

 不正任用された者が、任用を取り消されるまでの間に行った勤務は、中和広域消防組合にとって全く利益をもたらしていない。

 本件において不正任用された者は、任用取消までの間、初任教育を受けたのみであり、消防組合職員としての本来の職務に就いたことは一度もなかった。

 初任教育は、消防職員として本務を遂行するに当たって必要な知識や技能を得るための教育課程であり、それ自体には価値はなく、また中和広域消防組合にとっても何らの利益もない。初任教育に価値があるのは、初任教育を受けた新規職員が知識や技能を習得し、将来において、それを本来の職務である消防活動等に活かすことが見込まれるからである。ところが、不正任用された者は、本来任用されるべき立場になく、初任教育後に職務に従事することを予定されていなかったというべきである。したがって、このような者に初任教育を施しても、中和広域消防組合にとっては単なる経費の無駄遣いに過ぎず、何らの利益ももたらさない。

 よって、このような初任教育の受講と給与との間には対価関係はないと言うべきであり、この意味でも両者は著しく均衡を欠くというべきである。

 結論−損害額は支給された給与及び手当の全額

 以上より、不正任用された者らの勤務とこれらの者に支給された俸給は著しく均衡を欠くと言うべきであり、この点で被告には「損害」が生じていると言える。

 しかも、上記のとおり初任教育が被告にとって全く意味をなさない以上、その間の給与及び諸手当の全額が「損害」に当たると見るのが相当である。

 万一、不正任用者の勤務に若干でも価値が見出されるとしても勤務と俸給の著しい不均衡は明白だから、「損害額」の認定にあたっては、民事訴訟法248条の趣旨に基づいて相当な損害額を認定すべきである。

4 初任教育受講中の入校旅費及び初任教育負担金

 前記のとおり、不正任用された者らに対する初任教育は、前記のとおり被告にとって無意味である以上、そのための旅費及び初任教育負担金も、実質上、それらの対価となる役務等が被告に提供されて被告に利益がもたらされたといえない。すなわち、実質的に被告に利益をもたらす対価を伴わない、一方的な負担によって、被告に損害が生じたと言える。したがって、支出された、初任教育受講中の入校旅費及び初任教育負担金相当額の損害が被告に生じたと言える。

5 被服費

 消防服については、消防服という有形物が中和広域消防組合に残っているものの、消防服はその安全性を確保するため、消防職員各人の体型にあわせて各人別に作製するため、別の職員が使うということが出来ず、他に転売することも不可能だから、廃棄物となっており、無価値である。したがって、不正任用された者らに関する被服費は、被告に何ら利益をもたらすものではないといえるから、被服費相当額の損害が被告に生じたものと言える。

以上


奥田寛HPのTOPに戻る