ポート(地方自治論・行政法2 平成18年1月・誤字脱字加筆修正済み)

 

(1)三位一体改革について

(2)予防接種禍訴訟における損失補償と国家賠償について


1)三位一体改革について

目的



(経済上の目的)

「官から民へ」の考え方の下、歳出抑制により、国債・地方債の発行による巨額の累積赤字を軽減し、極端な少子高齢化による社会福祉費の増大見込みに対応できる、歳出の小さい効率的な政府を目指す。
この経済システムの改革がなされなければ、国際的信用の回復と景気回復は有り得ない。

(政治上の目的)

「国から地方へ」の考え方の下、収入と支出、負担と受益の関係を明確にし、真に住民に必要な行政サービスを地方自らの責任で行う民主的な社会を目指す。
政治離れが言われる世の中だが、できるだけ直接的な民主的政治システムを追求していくことで、国においても地方においても、税金の無駄遣いを減らし、みなが納得する公金の取扱いが可能になっていくはずである。


手段



(国庫補助負担金の削減)

「国庫補助負担金等整理合理化方針」に基づき、事務事業の見直しを行いつつ国から地方へ渡される補助負担金を削減し、国と地方の行財政の効率化・合理化を進める。
公共事業関係の負担金については、受注時における談合の噂などもあることから、官製談合の阻止などを含む抜本的な制度改革が期待される。

(地方交付税交付金の削減)

国から地方へ渡される交付税を削減し、不交付団体(市町村)の人口の割合を高める。
市町村合併を進める。地方分権に対応できる自治体規模と、交付税の減額に対応できる自治体規模を目指して、小規模自治体を減らしていく。
地方財政計画上の人員を4万人以上純減し、投資的経費(単独)を平成2〜3年度の水準を目安に抑制する。

(地方への税源委譲)

地方の課税自主権の拡大を図る。
国から地方へ、基幹税の充実を中心に考え、義務的な事業については所要の財源全額を委譲する。
補助的事業については8割程度を目安として委譲していく。
地方からの提案をどう生かしていくか、今後も継続的な見直しが必須と思われる。
総じて、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を供えた地方税体系を構築することが必要である。


進捗状況



小泉政権は2004〜2006年度を改革期間と位置付け、4兆円程度の補助金削減と3兆円程度の税源委譲を実施する予定で、その補助金削減の原案については地方に提案を求めた。
しかし、実際には地方案が受け入れられなかった部分も多く、地方は2007年度以降の「二期改革」を求めている。

補助金削減について地方が2004年8月にまとめた案は3兆2284億円分。
そのうち政府案に盛り込まれた削減案は1兆2393億円で、達成率は38・4%、義務教育費を除くと12・1%にすぎなかった。
内訳は、義務教育費(文部科学省8500億円)、国民健康保険(厚生労働省7000億円)、児童手当・児童扶養手当(同3380億円)、公営住宅家賃対策(国土交通省1260億円)、各種施設整備費(厚生労働省など4省約700億円など)で、2004年度に6560億円、2005年度に1兆7430億円(暫定の義務教育費含む)、2006年度に6100億円、合計で3兆円程度の税源委譲が見込まれている。

補助金のさらなる改革とともに、今後は交付税の見直しが中心になるが、不交付団体以外の地方は一般に消極的な現状である。

 

参考

2005年12月5日(月)日本経済新聞

経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003


(2)予防接種禍訴訟における損失補償と国家賠償について



予防接種禍大阪集団訴訟事件(大阪地裁昭和62年9月30日判決・昭和50年(ワ)第・3388号、昭和54年(ワ)第5473号損害賠償請求事件)



各種予防接種の副作用によって死亡または心身障害を受けたとする被害児と両親らが原告となって、国を相手どって損害賠償または損失補償を請求した。
原告らは(1)安全配慮確保義務違反に基づく債務不履行・不法行為責任および(2)国賠1条の過失による損害賠償を請求した上で予備的に(3)憲法13条・14条1項・25条1項・29条3項に基づく損失補償請求を行った。
判決は被告に債務としての安全配慮義務があったということはできないとし、国賠についても厚生大臣、公衆衛生局長等の公務員、担当医師らの過失を認めず損失補償についても憲法29条3項の財産権からの(類推)適用はできないとした。
しかしながら、被害が社会生活上の受忍限度を越える損失であること、伝染病の集団防衛という公益に対応する特別な犠牲であることを考慮し、憲法13条・25条1項・29条の各規定から、憲法は身体を財産権よりも厚く保障していることが明らかであり、公益に対する特別な犠牲という点から憲法29条3項の勿論解釈により損失補償を認めた。
また、この損失補償が憲法上認められるものである以上、これを行政・立法の裁量によって限定すべきでなく、予防接種上の救済制度とは別にこれを請求できるものとした。



予防接種と国家賠償責任(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・昭和61年(オ〉第1493号損害賠償請求事件)



腫瘍の予防接種による副作用で重篤な後遺障害を負ったXと両親が、禁忌者に対する予診の過失を訴えて国・北海道に国賠1条による損害賠償を求め、原審(高裁)では予備的に憲法29条3項による損失補償を求めた。
一審は担当医師の問診義務違反の過失を認め、Xの母親がXの身体状況を報告しなかった部分を二割相殺した上で損害賠償を認容した。
高裁は禁忌者であったこと自体認めず、予診に不十分な点があったとしても因果関係がないとして国賠を棄却、損失補償についても行政訴訟における実質的当事者訴訟にあたり、国賠とは訴訟物を異にし併合できないとして不適法却下した。
最高裁判決は被害者が特異体質であったことが認められていない限り、禁忌者であったと推定するのが相当であり、必要な予診が尽くされたかどうかを審理していない高裁判決を破棄、差し戻した。
結局、この流れは被害個人の特異体質という考え方をほとんど立証不可能なものとして否定し、被害個人全員を禁忌者に対する接種が行われたもめとして厚生大臣の過失を認める以下の判決へつながっていくことになる。


東京予防接種禍訴訟控訴審判決(東京高裁平成4年12月18日第10民事部判決・昭和59年(ネ)第1517号、昭和60年(ネ)第2887号損害賠償請求控訴、同付帯控訴事件)

国の行政指導に基づいて地方自治体が勧奨した各種予防接種の副作用によって死亡または後遺障害を負った乳幼児とその両親らが原告となって、国を相手どって損害賠償または損失補償を請求した。
東京地判では62名のうち、2名分について担当医の過失が認められ国の損害賠償責任を、その他については憲法29条3項の類推適用により損失補償が認められたところ、国が控訴した。
判決は財産権に対する適法な侵害に関する補償を定めたた憲法29条3項を根拠とする損失補償は否定し、また、憲法13条、14条、25条から損失補償を根拠づけることもできないとした。
しかし、副作用の原因については、医師による予診不十分の上での禁忌者に対する予防接種の可能性と、患者の特異体質によるものとの二つの可能性があるところ、圧倒的に前者の可能性が高いこと、また、制度上、医師個人の過失というよりは組織過失であることを踏まえ、厚生大臣の過失としての損害賠償を認めることで被害者の救済が行われた。
各方面からの検討で、きわめて高い評価の与えられている判例ではあるが、損害賠償を認めることにより、一括して損失補償の可能性を否定している部分については疑問も残っている。


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