レポート(行政学 平成16年7月)
(1)中央省庁改革によって新設された「内閣府」の組織及び役割について
(1)中央省庁改革によって新設された「内閣府」の組織及び役割について
橋本総理(当時)自らを会長として平成8年11月より審議を開始した「行政改革会議」は、平成9年12月には「最終報告」をまとめあげ、
(1)硬直化した省庁の再編
(2)独立行政法人の設置などによる行政のスリム化
(3)内閣機能の強化
を強く提言し、この提言に基づいて、平成13年1月からは従来の1府22省庁を1府12省庁に再編した新しい体制がスタートした。
ここでは【内閣府】が内閣官房とともに、どのような役割を期待されているか、従来の【総理府】に比べてどのような組織変更がなされたのかについて考察する。
<<役割>> 内閣機能の強化
【内閣府】設置の目的は、言うまでもなく「内閣機能の強化」である。
日本の政治風土の中では、【内閣】が行政を、【国会】が立法を司るという建前でありながら、その実「行政」や「立法」を実際に行っているその中心は職業的行政官であり、【内閣】の構成員を含めた「国会議員」たちは立法能力に欠け、行政の上でも立法の上でも職業的行政官に大きく依存してきた。
この「官主導」の構造の中では、どうしても行政の縦割り化、硬直化が見られ、官の上に立つ大臣たちが、内閣の中にあってさえ各省庁の省益の代弁者とならざるを得ないこともしばしばであった。
この弊害を避け、政治家の総合的な視点からの行政や立法を実現しようという「政治主導」のための改革が【内閣官房】の強化と【内閣府】の設置である。
【総理府】が他の省庁と同様に「国家行政組織法第三条」によって定められ、他の省庁と同格とされていたのとは異なり、【内閣府】は他の省庁より一つ上の、内閣官房と並列の位置に置かれている。
日本の政治制度の上で、「官主導」と呼ばれる政治構造が生まれることになった最大の理由の一つは、諸外国に比べて政治的任命職の数が少ないことだと考えられている。
そこで、平成12年の「国家行政組織法」の改正では、大臣、政務次官とその他若干のポストだけであった各省庁の政治的任命職を増員することとした。
政務次官に代えて副大臣を置き、大臣政務官の職も新設したのである。
【内閣官房】、【内閣府】の双方においては省庁の内外から人材を登用する道も開かれ、補佐官、審議官、政策統括官といったスタッフを強化するとともに、特に【内閣府】では、特命担当大臣が重要課題に関する大臣レベルの調整を担当する体制を作っている。
【内閣府】は「知恵の場」とも呼ばれ、【内閣官房】と一体化して行政を統括し「政治主導」による政策の企画立案を可能とすることを期待されて設置されている。
ただ、【内閣府】に、各省の予算、法制度、人事・組織、情報等に関する基本的な権限を付与することが出来れば、「政治主導」はもっと明確なかたちで強化されたであろうが、現実にはそこまで至っていない。
いわゆる「統制機能」のうち大蔵省が握っていた財務については、相変わらず財務省が担当する。
また、従来【総理府・総務庁】の権能であった組織や公務員の定員管理は【総務省】に移されているが、これについても、他の省庁と同列のはずの【総務省】に「統制機能」を付与したことも疑問である。
<<組織>> 総理府と内閣府の違い
しかし、考えてみれば「各省庁間の調整」や「内閣の発議」という機能は、省庁再編以前の【総理府】の時代から期待されていたことではなかったか。
【総理府】と【内閣府】において、その組織と所管する事項の範囲は、具体的にどう変わってきているのだろうか。
すでに廃された「総理府設置法」と「内閣府設置法」に記載の組織を対比してみると、別表のようになる。
また、この表に記しきれなかった所管事項のうち、現在、「男女共同参画」「防災」「金融・経済財政政策」「規制改革・産業再生機構」「青少年育成及び少子化対策・食品安全」「沖縄及び北方対策・個人情報保護・科学技術政策」といった分野で特命担当大臣が置かれている。
この表をざっと見る限り、形は変わっても特に機能が変化したという印象は少ない。
確かに、総務庁は総務省に移され、環境庁は環境省に格上げされたため、内閣府を外れているし、国立公文書館や駐留軍等労働者労務管理機構は独立行政法人となっている。
そのほか、公害等調整委員会が総務省に移されたりもしているが、もともと「他の省庁の管轄でないものを引き受ける」という性格を有するため、スリムになろうとすること自体に強いこだわりも感じられない。
【内閣府】が「政治主導」を実現するかはどうかは、これからの実際を見て判断するほかなさそうである。
(2004年7月14日)
参考文献 「現代の行政」森田 朗・著 その他、省庁再編と法律に関連するホームページなど。
総理府設置法(廃) |
内閣府設置法(改正平成15年8月1日) |
(審議会) 港湾調整審議会(法) 税制調査会(令) 対外経済協力審議会(令) 海洋開発審議会(令) 貿易会議(令) 検祭官適格審査会(令) 社会保障制度審議会(令) 地方制度調査会(令) 選挙制度審議会(令) 電源開発調整審議会(令) 資金運用審議会(令) 原子力委員会(令) 原子力安全委員会(令) 国土開発幹線自動車道建設審議会(令) 科学技術会議(令) 宇宙開発委員会(令) 歴史的風土審議会(令) 動物愛護審議会(令) 衆議院議員選学区画定審議会(令) 地方分権推進委員会(令) 国会等移転審議会(令) 男女共同参画審議会(令) 民間資金等活用事業推進委員(令) |
(重要政策に関する会議) 経済財政諮問会議(法) 総合科学技術会議(法) 中央防災会議(法) 男女共同参画会議(法) (審議会) 国民生活審議会(法) 民間資金等活用事業推進委員会(法) 食品安全委員会(法) 独立行政法人評価委員会(法) 原子力委員会(法) 原子力安全委員会(法) 地方制度調査会(法) 選挙制度審議会(法) 衆議院議員選挙区画定審議会(法) 国会等移転審議会(法) 情報公開審査会(法) ●総合規制改革会議(令) 地方分権改革推進会議(令) 税制調査会(令) (審議会設置の特例) 沖縄振興審議会(法) 道路関係四公団民営化推進委員会(法) |
(施設等機関) 国立公文書館(法) 迎賓館(令) |
(施設等機関) 経済社会総合研究所 迎賓館 |
(特別の機関) 日本学術会議(法) 中央防災会議(法) 中央駐留軍関係離職者等対策協議会(法) 公害対策会議(法) 消費者保護会議(法) 中央交通安全対策会議(法) 高齢社会対策会議(法) 国際平和協力本部(法) 阪神・淡路復興対策本部(法) 地震調査研究推進本部(法) |
(特別の機関) 北方対策本部(法) 金融危機対応会議(法) 少子化社会対策会議(法) 高齢社会対策会議(法) 中央交通安全対策会議(法) 消費者保護会議(法) 国際平和協力本部(法) (特別の機関の設置の特例) 原子力立地会議(法) |
(外局) 公正取引委員会(法) 国家公安委員会(法) 公害等調整委員会(法) 金融再生委員会(法) 宮内庁(法) 総務庁(法) 北海道開発庁(法) 防衛庁(法) 経済企画庁(法) 科学技術庁(法) 環境庁(法) 沖縄開発庁(法) 国土庁(法) |
(地方支分部) 沖縄総合事務局(法) (外局) 宮内庁(法) (委員会及び長) 公正取引委員会(法) 国家公安委員会(法) 防衛庁(法) 防衛施設庁(法) 金融庁(法) |
(内部部局) 大臣官房(令) 賞勲局(令) |
(内部部局) 大臣官房(令) 政策統括官七人(令) 賞勲局(令) 男女共同参画局(令) 国民生活局(令) 沖縄振興局(令) |
●総合規制改革会議(令)は平成16年3月31日で廃止され、規制改革・民間解放推進会議が発足。
(2)情報公開制度の必要性と目的及び今後の課題について
「情報公開制度」は、行政による市民への説明責任と、市民の「知る権利」を保障するものである。
日本では昭和57年に山形県金山町が導入して以来、主に大きな自治体での条例化が進み、平成に入ってからは市民オンブズマングループなどの積極的な利用によって、市民による行政評価の一翼を担ってきた。
国では平成13年より「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法と略す)として、施行されているものの、国には地方自治体における「住民訴訟」にあたるものがないため、開示された情報によって、直接、行政責任を問うことが出来るよう「国民訴訟」のシステムを求める声もある。
<<必要性と目的>> 責任と統制
行政には「市民の代理者」としての立場から、事務事業の執行について問われれば応えるべき「説明責任」がある。
日本国憲法第63条は、内閣総理大臣その他の国務大臣が、議案について説明を求められれば国会に出席しなければならないものと定めているが、これは、裏を返せば議会には「知る権利」があるということにもなろう。
憲法や国の「情報公開法」には明記されていないが、各地の自治体の条例では「知る権利」を明記しているものも多い。行政による情報の公開自体は、民主主義の前提として当然の「責任」である。
言い換えれば、情報公開制度は、「われわれの社会が民主主義であるために」必要なのであり、「民主主義であること」自体が目的である。
行政の「統制」という意味からも情報公開制度は必須のものとなっている。
社会の発展によって行政組織・事務が巨大化、複雑化すればするほど、事務事業の評価は困難なものとなり、評価が困難になれば、評価に基づいてあるべき次年度の予算は根拠が曖昧になり、執行の必然性がぼやけて、無駄が多くなっていく。
この事態を避けるための「統制」や「評価」は、まずは議会や監査組織といった「外圧的・制度的」なシステムがリーダーシップを発揮すべきだが、これらの「制度」には常に限界もある。
「よりよい行政の実現」というシンプルな目的のために、情報公開制度が必要である。
市民自らが直接、巨大化した行政のさまざまな面に光を当て、意見をぶつけて改善を求めていかなくてはならない。
以上の論考の前段において、「議会」は「市民の代表」であり、行政を統制する側であるが、同時に「議会」は「市民の代理者」でしかなく、市民によって「統制」されるべき公務員組織の一部である。
その「統制」とは、言うまでもなく「選挙」だが、昨今の政治不信状況の中では、「選挙」を通じて「議会」に働きかけ、間接的に行政を統制することばかりでなく、市民が直接、行政に働きかける手段を求める声が強まっているのである。
自治体行政に対しては住民による四種の直接請求(条例の制定改廃請求・事務監査の請求・議会の解散請求・議員や長などの解職請求)のほか、監査請求から住民訴訟への道もあり、自治体によっては独自の情報公開条例や住民投票条例で住民の政治参加を促したり、住民からの苦情を受け付ける公的オンブズマンを置いている場合さえあるが、国に対する直接的な「統制」制度は極めて限られている。
「行政手続法」「情報公開法」「行政相談委員」による行政統制はあるが、「行政事件訴訟法」には住民の不利を指摘する声が強く、今後の改革が待たれるところである。
さらに、住民自身の責任を問うものとして、「情報公開制度」の必要性を指摘することができる。
そもそも、民主主義は民衆自身の責任が問われるシステムであって、行政に不備があるならばそれは行政を統制すべき政治家の不備であり、政治家の不備はそれを選んだ民衆自身の不備である。
自治体政治のように、住民の直接請求の範囲が多いシステムであれば、行政の不備は住民自らが「行動しなかった」ことによる不備というべき部分が多くなる。
現行の地方自治法の上では、行政に対する住民監査請求ができるのは、問題となる当該行為のあった日から1年間とされているが、これは住民が積極的に自治体行政を監視しなければ行政に対する責任が問えなくなり、住民自身の責任に回帰してくるという意味にもとれるのである。
そうした観点から行政情報の扱いを見た場合、情報が行政の秘密主義によって封じられている場合に比べ、情報があからさまに市民の目にさらされていればいるほど、市民自身の責任の範囲は拡大していると言えるのではないだろうか。
情報公開制度は、行政が外部の目にさらされて鍛えられることだけでなく、行政を見つめる市民自身の自立性を鍛えるためにも必要であり、その相互補完が成されてこそ民主主義の成熟があるものと言えよう。
<<今後の課題>>
福祉的役割を強め、必然的に膨張し続ける現代の「行政」は決断に時間がかかり融通が利きにくいばかりでなく、財政的に未来のないシステムになっている。
今まで「公」とされてきた役割を民間に委譲しつつ、行政体そのものは効率的で小回りの利く、調整者としてのシステムに生まれ変わる必要がある。
そうして公私が出会う範囲が増えて、民間が持ち前の効率性で公的目的を追求するなら理想的だが、私的利益のために公費が利用されないとも限らない。そのような事態を避けるためには、行政による調整とともに、市民自身の公益に対する内発性を高めるシステムが必要である。
情報公開制度は、行政情報を扱うものでありながら、行政周辺の活動を行うNPOや自治会の相互理解を進め、互いの意識を高め合う道具にもなっていくことが望まれる。
以上のような「情報公開制度」に期待される意義、役割、目的が達成されるための、 具体的な方策としては、要求されれば情報を出すというレベルから、さらに一歩踏み込んだ「情報の作成と公表」へと制度変更することが考えられる。
現時点では、各地自治体の情報公開制度の中で、「文書不存在の場合、作って出す」と宣言している例は、筆者の知る限り、北海道ニセコ町の例一件があるのみである。
(2004年7月14日)
参考文献 ●「現代行政学」佐々木信夫・著 ●「現代の行政」森田 朗・著 その他、各自治体のホームページなど。
北海道ニセコ町ホームページ「情報公開条例の概要」
http://www.town.niseko.hokkaido.jp/jyohokokai/
「公開請求に係る町政情報が「不存在である場合」であっても、その請求に係る町政情報を新たに作成することが可能な場合は、新たに作成又は取得して公開します。(ただし、作成することが町の業務にとっても効果があるときに限ります)」
ニセコ町情報公開条例第13条第2項
当該公開請求に係る町政に関する文書等を新たに作成し、又は取得して、当該文書等を請求者に対して公開する旨の決定をすること。